隣の彼は契約者
03*3
パスワードを打ち込む音に掻き消されそうなほど小さかった声に反射的に聞き返す。画面を見たままバツが悪そうに返された。
「チョコナンのな……」
「あ……」
混乱していた頭に昨日のことが浮かぶ。
同時に湯気が出る出来事も思い出し顔を伏せてしまった。けれど、少しだけ視線を上げると彼の頬が薄っすら赤いようにも見える。凝視してしていると目が合った。
「おい、代わってもらいたいならとっととデータを送って帰り支度しろ」
「は、はい!」
眉を吊り上げた気迫に、画面の光で赤くなっていただけだとキーボードを打つ。
送信後、慌てて片付けると鞄を肩にかけ、リズム良くキーボードを叩く人に戸惑いながらも頭を下げた。
「あ、あの、本当にありがとうございます!」
「仮を作るのが性に合わないだけだ……」
「はい。またお礼にチョコナン作ってきますね!」
「人の話を……はあ、とっとと行け」
最後、諦め半分のように手を振られたが、また頭を下げると背を向ける。そこでふと振り返ると訊ねた。
「あの、この付箋ってどこに売ってるんですか?」
先輩がくれる黄色の付箋。
思い返せば一昨日、昼休みに渡された書類付箋にもペンギンが描かれていた。絵柄豊富で可愛いので欲しいと思ったのだが、先輩の手がピタリと止まる。