隣の彼は契約者
03*4
それから動かなくなってしまい小首を傾げる。
数秒後『……どこかだ』と淡々と返されると同時に両手が再開され、私も『そうですか』としか返せず、また一礼すると部署を後にした。
タイミングが良かったのか、待つことなく電車に乗り込み、ものの十数分で目当ての駅に着いた。
待ち合わせ場所は駅から歩いてすぐのカフェ。
先方はまだ着いてないようで、先に入って待たせてもらうことにした。
でもソワソワしてしまって、とてもじゃないが落ち着かない。最初は会社に訪れるお客様感覚でいいんだろうかと自問自答していたが、いつの間にか店内を観察しては妄想を膨らませていた。
「あのー……まひろ先生ですか?」
「ぅえっ!?」
突然の声に肩が跳ねる。
気付けば一人の女性が佇み、ニッコリと微笑んでいた。
* * *
「改めまして。○×出版社の編集をしております、大橋 絢子です」
「は、はじめまして。大野まひろ……です」
向かいから名刺を差し出され、私も会社の名刺を出す。
きょとんとされてしまったが、くすくす笑いながらも受け取ってくれた。早速逃げ出したくなってしまうが、飲み物を待っている間に彼女を観察する。
ショートカットの黒髪から覗く耳にはピンクのピアス。
グレーのパンツスーツは華奢な身体のラインと一七十はありそうな身長にピッと合っている。キリっとした瞳はいかにも“できる人”といった印象だ。