隣の彼は契約者
01*隣の席
「ん~、休み時間~!」
昼のチャイムに、パソコンから目を離した私は大きく背伸びをする。
大野まひろ。二十四歳。
四年大学を卒業後、都内にある大手電機メーカーに就職したニ年目の初秋。
まだまだ新人OLとして目まぐるしい毎日を送っているが、幸い人間関係も良好で辛いと思うことは少ない。でも、腹が減っては戦はできぬと立ち上がると、横から数枚の紙を差し出された。
「……定時まで」
「チャイム後は無効ですので、相沢(あいさわ)先輩がやってください!」
片手でパソコンのキーを打ちながら淡々と告げた隣の男性に、両手でバッテンを作る。けれどチラ見され、渋々了承した。
横に四列、向かい合うようにくっつけられたテーブル。
私が所属する総務課は壁際にあり、奥の席が課長。新人の私は一番手前の席になるが、すぐ横は通り道で、向かいのテーブルも使用者はなし。そのため必然的に指導する先輩にあたるのが彼。
隣の席、相沢 雅史。二十七歳。
艶のある短い黒髪に、すっと通った鼻梁。
端正な顔立ちと、キッチリと着こなしたスーツは社内の誰よりも魅力に感じるのに、細い眼鏡フレームの奥にある切れ長の双眸は冷たい。
配属時は隣にイケメンが! と、内心ドキドキしたものだが、ニ年も経てば中身も知る。仕事が真面目のように、冗談も通じない堅物だと。ついでに冷たく見える目と顔はただ眠いだけだと。
大きな溜め息をつくと黄色の付箋がついた書類をマウスで押さえ、携帯と財布を持つ。本当は社内食堂で食べたかったが、終業まで間に合う気がせず、足早に売店へと向かった。