隣の彼は契約者
03*6
「でも、そこに可能性というリアルがあったらトキメキません?」
「そう……ですね。こういう喫茶店だって、毎日通ってたら素敵な人と会えそう……」
頼んだストレートティーに砂糖とミルクを入れながら店内を見渡す。
会社近くのとは違い、レトロな内装で耳には心地良いクラシック。ゆったりとした一時を何時間でも過ごせそうな雰囲気だ。
もし、自分がここの店員で常連さんがお金持ちかヤクザだったら……実際はありえないかもしれないけど、充分ドラマチックで、妄想でも夢物語でもトキメいてしまう。
「特にまひろ先生の作品相手は隣の席……会社勤めとしては悶えます!」
「そ、そうですか?」
えらく褒められているようで逆に不安になる。
でも、シーンを交ぜた会話。何より、口元を手で隠した彼女は頬を赤くしていることにポツリと呟きが零れた。
「本当に……読んでくださってるんですね」
「もちろんです。常に投稿者様のは読ませてもらってますし、より共感できた作品は訪問数、感想、レビューを参考に書籍を検討させていただいてます」
仕事に戻るように両手を膝に乗せた彼女はゆっくりと頭を下げる。
「それで今回、私はまひろ先生とぜひ一緒に作りたくてお声をかけさせていただきました」
さっきまでのとはまた違う熱意に、私はただ驚きと感嘆の声を上げるしかない。
何十何万もの作者が書いた作品の中から選ぶなんて、宇宙でたったひとつの宝物を見つけるようなものだ。
それが自分なんて今でも信じられないけど、彼女に嘘なんて見当たらない……純粋に嬉しい。