隣の彼は契約者
04*2
両手で顔を覆う私とは違い、先輩の隣に座る大橋さんは楽しそうに話しはじめた。
「まさか会社帰りにバッタリ会うなんて、ありがちですけど運命的ですよね」
「お前達編集に非はないと言いたいのか?」
「確かにみやび先生も打ち合せだったのは知ってましたよ。でも場所まではわかりませんって」
目を細める先輩に大橋さんはニッコリ笑顔。
どうやら彼の約束相手も編集者だったようで、不思議とほっとした。けれど、テーブルに置かれたイラストに両手は外せても顔を上げることはできない。
だって相沢先輩が絵師なんていまだに信じられない。
別に男性が少女漫画を読むのはおかしいとか偏見なことは考えてないけど、“描く”のは許容範囲を超えている。
絵柄だって萌え系や美少女とは違う、完全少女系。
どれも“相沢先輩”に当てはまらない。むしろスパルタなドS編集者と言われた方が信じられる。素敵なギャップ……デスヨネ。
既にキャパオーバーした頭が現実逃避をはじめていると、何かに気付いたように大橋さんが呟いた。
「あのー……さっき、隣の席とか言いました?」
「っ……!」
指摘に我に返るが、既に先輩がなんでもない様子で頷いている。
大橋さんの目が爛々に輝いた。
「もしかして、まひろ先生の話って」
「すみません!」