隣の彼は契約者
04*3
遮る声は意外と大きく、気付けば席を立っていた。
店内のざわつきが顔を伏せていてもわかる。でも、嫌な音を鳴らす動悸に自然と口が開いた。
「すみません……やっぱりこのお話……お断りします」
「え? あ、まひろ先生!?」
テーブルに飲み物代を置いた私は制止の声も聞かず歩きだす。
間際、眉を顰めた先輩の顔が見えたが、胸の奥が痛くなるだけで足早にカフェを後にした。
金曜の夜、外は大勢で賑わっている。
けれど、そんな声など今の私には届かなかった。
* * *
それからどうやって帰ってきたかはわからない。
着替えもせず、化粧も落とさず、畳まれた布団の上でずっと俯せになっていた。無機質な時計の針だけを聞き続けていたが、ふと顔を上げる。放置していた鞄の外側ポケットから覗く携帯が目に入った。
「大橋さんに連絡……しないとな」
今になって失礼なことをしたのだと思い出す。
たった数時間だけなのに親身に作品のことを考えてくれて、たくさんアドバイスをくれた。この人とならって……思えたはずなのに。
ぎゅっとシーツを握りしめると、目が本棚に移る。
といっても三段ボックスを縦にし、横に二つ並べているだけの簡易本棚。そのほとんどは小説で埋まっていて、起き上がると手を伸ばした。