隣の彼は契約者

04*4



 取り出したのは背表紙に○×出版社と書かれた数冊で、その内の一冊に手が止まる。


「持ってたんだ……」


 スーツを着た二十代らしき男女が背中合わせで怒っている表紙。
 大きく書かれたタイトルと作者の横には小さく“illustration みやびふみ”の名があり、背景を埋めるヌイグルミの中には見たことがあるペンギンがいる。

 他の出版社の本を漁ってもこれ以外その名前は見つからず、手に持ったまま寝転がった。

 ぱっと見、そんなに目立つ絵柄じゃないし、これも作家さんが好きで買った本。
 でも、柔らかな色合いはサンプルで見せて貰った物と同じで、モノクロの挿し絵も丁寧に描き込まれていた。キャラの表情やシーンが文と合っているのはもちろんのこと、ハッピーエンドになる最後の絵は本当に幸せそうで自然と笑みが零れる。

 気付けば読み更け、時刻も0時を過ぎていた。
 本を閉じると、ペンネームであろう名前を指先でなぞりながらポツリと呟く。


「みやびふみ……雅史」


 みやび=雅、ふみ=史。雅史。
 思いつきでも、知っていると繋がってしまう名前に胸が酷く痛んだ。



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