隣の彼は契約者
04*7
「まひろちゃん、相沢くんと喧嘩したの?」
「うぇっ!?」
昼休みになり、食堂で一息ついた頃。
向かいに座る同じ課の女性先輩の一言にメンチカツが箸から落ちる。慌てる私に、彼女の隣に座る別の女性先輩も『そうそう』と割って入ってきた。
「明らかに今日避けてるでしょ?」
「入社時から仲の良い夫婦漫才がないから調子狂うのよね」
深刻そうに頷く二人に、メンチカツをくわえたまま顔を伏せる。
確かに入社した時から隣にいるから他の人と比べたら仲が良いかもしれない。他愛ない話をちょっとして書類任されて怒って……それが今日はない。
ダメだと思っていてもキーボードを打つ指を、メモを取る字を、横顔から見える目を、今までとは違う角度で見ていたはずなのに話せてない。
それだけでとても寂しくなってしまい、箸が止まってしまった私に先輩二人は互いを見合う。
エビフライと唐揚げをひとつずつくれた。
* * *
「おい、大野」
「っ……!」
聞きたかった、聞きたくなかった声に肩が大きく跳ねる。
ドアを遮るように佇むのは不機嫌そうに腕を組んだ相沢先輩。
その様子に女性先輩二人は私の肩を小さく叩き、普通に室内へと入れてもらった。続くように私も足を入れる。が、勢いよく目の前を通過した片手に通せん坊された。
壁を激しく叩く音よりも、自分を覆う影と傍に感じる吐息に顔を上げることができない。恐怖とは別の何かに身体は震え、動悸も激しくなると、そっと耳元で囁かれた。
「話がある……帰り残れ」
今まで聞いたことないほど低いのに、腰を抜かしそうなほど艶やかな声が全身に響き渡る。
そんなの帰りに言ってくださいよおおおおぉぉーーーーっっ!!!