隣の彼は契約者
05*2
反射のように隣を見る。
昼休みからいっそう避けてたはずなのに、その姿と横顔になぜか安堵の息をついてしまった。
「……言わなかったか」
「へ?」
突然の呟きと合わさった目に素っ頓狂な声を返す。
瞬きする私に、先輩は奪った紙を持ったまま片手でキーボードを打ちはじめた。
「俺の手が空いていたら頼れと」
溜め息交じりの指摘に数秒考え込む。
確かについ先週聞いたことだ。でも腑に落ちず、顔を顰めると言い返した。
「手が空いてない人に聞けるわけないじゃないですか」
私に放り投げておきながら、自身のデスクの紙束も一向に減っていなかった先輩。キーボードを叩く音も途切れなかったし、忙しい人に訊ねるのは気が引けてしまう。
「そもそも……はじめての分を何も言わず入れるのはどうかと思います。しかも一番下」
愚痴を零すように口を尖らせていると先輩の目が私に移るが、すぐパソコンに戻った。
「そりゃ、元から俺のだったからな。どこにいったか探してたんだ」
「はいっ!?」
「で、かれこれ三十分ほどお前を見ていて俺のだと気付いた」
「はいいっ!?」
何食わぬ顔でキーボードを打つ人に、ただ唖然としてしまう。