隣の彼は契約者
06*何千万通り


 二台のパソコンが私たちを照らす。
 といっても上半身ぐらいしか見えない、頼りない明かりだ。でも、目の前の笑みがとても綺麗で意地悪なのはわかる。
 頬に添えられた大きな手が見えなくても伝わる。彼の体温が。


「契約……って?」


 振り絞った声を出すと、頬にあった親指が唇に触れた。
 それだけでピクりと身体が跳ね、なぞるように動かされるとぎゅっと瞼を閉じる。頬を引っ張られた。


「いひゃい~~~~っ!」


 予想外すぎる行動に、驚きよりも痛みが勝つ。
 涙目になる私に一息ついた先輩は手を離すと眼鏡をかけるが、その口元はいつものように結ばれていた。


「まあ、共犯故の契約だ」
「きょ、共犯って別に私は……」
「ほう? 『そっと触れ合った手は自分のより一回りも大きくて暖かい。これは』」
「うわわっ、わああぁーーーーっ!」


 覚えのある文を読まれ、顔が真っ赤になる。
 よく見れば先輩のパソコン画面には私の小説ページが表示され、慌てて立ち上がると背後から回ってマウスを奪った。閉じられたウィンドウに力が抜けたように腰を落とす横で、先輩はカップに口をつける。


「履歴も消さなくていいのか?」
「はっ! そう……って、なんてことするんですか!」


 動かそうとしていたマウスを止めると、睨むように見上げる。



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