隣の彼は契約者
06*4
「ともかく内容に関しては大橋と相談しろ。それ以外なら手伝ってやる」
「て、手伝うって……何を?」
「そうだな……」
握りしめていた両手が自然と解かれ瞬きする私に、携帯を打つ手を止めた先輩は視線を上げた。
「主に……隣から見る男視点や行動の取り方だな」
「はいっ!?」
「むしろ作中の二人のように秘密裏に付き合った方が早い……付き合おう」
「はいいっ!?」
平然と言われた『付き合おう』に開いた口が塞がらない。
確かに『隣の彼との秘密』の題通り、主人公たちは社内では内緒で付き合っている。けどそれは主人公が相手を好きだからときめくわけで、決してこんな軽いノリでは……『コンビニに付き合おう』の聞き間違いだろうか。
「まあ……俺では“雅”は務まらないだろうがな」
溜め息をつきながら立ち上がった先輩は携帯を仕舞うとパソコンの電源を落とす。シャットダウンする画面を見つめる横顔はどこか冴えず、私は首を傾げた。
「先輩は“雅”と同じぐらいカッコ良いですよ……?」
呟きに、先輩の目が驚いたように見開かれる。
咄嗟のことに後ろから回って自分のパソコンの電源を落とすと、まくし立てた。
「だ、だって先輩クールで仕事できるし、実は俺様だったし……ああっ、偶然ってあるんですね!」
モデルにした本人目の前に何を言っているのかわからなくなるが、あははと笑いながら振り向く。が、声に詰まってしまう。
何しろ眼鏡の奥にある瞳も口元も笑っているのがわかるからだ。