隣の彼は契約者
06*5
入社し、隣になってニ年。
はじめて見る柔らかな微笑に頬が熱くなり、顔を伏せると差し出された手が映る。いつも隣でキーボードを打つ指は男のものとは思えないほど細い。でも、長くて無骨な手。
見惚れてしまう手に『触ってみたい』の欲が生まれ、私も手を出す。
「余計な一言があった気がするが、お前が良いならそれで良い。作家と絵師……恋人でもやっていけるだろ」
「いや、別に恋人は……っ!」
我に返るように手を引っ込めようとしたが、もどかしいと言うように握られてしまった。驚く私とは違い、手を持ち上げた先輩は唇を寄せる。
「じゃあ、今日から俺たちは秘密の恋人だ」
「っ……!」
有無を言わせない艶やかな声と捉える目。
そして手の甲に落ちた口付けに全身が燃えるように熱くなった。口をぱくぱくさせる私に、唇を離した先輩は不思議なものでも見るような目を向ける。
「“雅”はこんなんじゃなかったか? それともお前、別に付き合ってる男でもいたのか?」
「そ、そうですけどっ、違っ……!」
「どっちだ」
上手く言葉を発せられないのは混乱からか、経験がないからか。
恋愛小説書いておきながら男性と付き合ったことがない、初彼氏ですと言えるわけもなく、ぎゅっと口を閉ざす。