隣の彼は契約者
06*6
それをどう捉えたかはわからないが、眉を顰めていた先輩はデスクの下に置いてあった鞄を手に取った。
「まあいい……話は飯を食いながらするぞ」
「え、ちょ、待っ」
引っ張られる手に慌てて私もデスク下の鞄に手を伸ばすが、握られたままでは届かない。振り向くと、先輩はマジマジと握った手を見つめていた。
「へー……女の手ってこんなに小さいのか」
姉妹いましたよねという疑問さえ出ないのは包む手のせいか。
しかし、唯一の明かりだったパソコンが消えたことで悲鳴を響かせる。怖さから、真っ暗闇の会社を出るまで彼の手を離すことはなかった。
手、というより全身が熱いのは羞恥だと思いたい。
* * *
「まひろ先生~っ!」
「きゃっ!」
会社から数駅先にあるファミリーレストラン。
その出入り口で待っていた大橋さんに会った瞬間抱きつかれてしまった。涙目の彼女に戸惑いながら先輩を見ると頷かれる。
「大橋の奢りだ」
「はいっ!?」
「会社のお金ですのでどうぞ食べてくださいっ!」
「はいいっ!?」
揃って誇らしげに言っていいものか悩むが、誘われるがまま店内に足を入れると、夕食の時間にも関わらず幸い待つことなく席に案内された。電話のため席を外している先輩を余所にメニューを捲る。
周りの美味しい匂いに頬が緩むが、やはり訊ねてしまった。
「あの……本当に奢ってもらっていいんですか?」
「はいっ。打ち合わせという名目でもありますから気にしないでください」
向かいに座る大橋さんは笑顔で頷く。