隣の彼は契約者
06*7
けれど『打ち合わせ』の言葉に胸がズキリと痛み、メニュー表を置くと頭を下げた。
「先週は……突然帰ってしまってすみませんでした。なのにまた……」
「そんな、私の方こそ空気も読まず出しゃばってしまって……申し訳ありませんでした」
慌てて両手を左右に振る彼女もまた頭を下げる。
周りがざわつく声に視線だけ合わせると不意に笑いが込み上げ吹き出してしまった。同じように大橋さんもくすくす笑う。
「本当はすぐにでも連絡したかったのですが、みやび先生に『自分が話をつける』と言われてしまって……だからまたお会いできて嬉しいです」
そう微笑む彼女に抱きしめられた時は驚いたが、その腕は強く、心配してくれていたのだとわかる腕だった。それだけでも充分嬉しいし、相沢先輩のせいだと考えると怒りも覚える。
不機嫌顔になった私は前のめりになると、瞬きする大橋さんに囁いた。
「みやび先生ってSですよね?」
突然の指摘に大橋さんは数度瞬きする。と、辺りを見渡し、同じように顔を寄せると眉を顰めた。
「むっちゃドSです。クールの皮を剥いだらただの俺様」
「泣かされたいのか?」
「「ひいっ!」」
地を這うような声に、歓喜よりも悪寒が走る。
見上げれば、眼鏡のブリッジを上げる先輩が不機嫌そうに立っていた。目を逸らす私たちに、溜め息をついた先輩は席に座る。大橋さんではなく私の隣に。
安堵とは違う気持ちに頬が紅潮するが、目を丸くした大橋さんの口元が笑みに変わり、慌ててお冷を手に取った。