隣の彼は契約者
07*想い
彼氏いない歴=年齢。
小中高は二次元、大学からは恋愛小説にハマり、一人暮らしのためバイト三昧。それなりにいた男友達からは女というより妹扱いされ、就職しても仕事を覚えるのに手一杯。恋愛する余裕なんてなかった……はずなのに。
秋空が広がる土曜日。
小花柄のブラウスの上に白のカーディガンを羽織り、ピンクのミモレ丈プリーツスカート。駅前ロータリーで待つ私の前に一台の車が停まると、助手席のウインドーが下がった。
「待ったか?」
「イエ、イマキタトコデス……」
運転席から身を乗り出した相沢先輩の一言に、待ち合わせのお約束台詞を片言で返した。
緊張で眠れなかった上、三十分も前から待ってたなんて絶対言えない。
* * *
先輩の運転でやってきたのは臨海公園。
天気が良いのもあって特に家族連れやカップルで賑わっていた。
端から見れば私たともその一員に見えるかもしれないが残念。
目的は『『隣の彼の秘密』の主人公と相手になりきって“デート”を体験! 作品に活かそう!』という、いわゆる取材だ。悲しい。
「まひろ、どこから回る?」
「はいっ!? あ、えっと……」
聞き慣れず身体を強ばらせるが、先輩は気にすることなく手に取った無料パンフレットを見せてくれる。
インクブルーのカットソーに黒のスキニーパンツの先輩は広大な敷地に驚きの声を上げるが、私は彼がここにいる事実にいまだ驚いていた。