隣の彼は契約者
07*3
でも、周りの楽しそうな声に身体がウズウズしてしまう。
「どうした……体調でも悪いのか?」
小刻みに震えているのがわかったのか、目を開くと先輩が片眉を上げている。意を決したように大きく深呼吸した私は、パンフレットを持つ彼の腕を両手で握った。
「行きましょう!」
「決まったのか……?」
「はいっ、適当に行きます! 自分が楽しまないとキャラも楽しく動いてくれないので!!」
勢いよく言った私に先輩は虚をつかれたように目を丸くする。
妄想の中でもキャラは動こうとしている。でも、せっかく自分も同じ場所に立っているなら純粋に楽しんで、その楽しさを拙い文章でも表したい。伝えたい。
何より自分も楽しめて作品のネタにもなるなら一石二鳥だ。
ぐいぐい引っ張る手にしばらく戸惑っていた先輩は観念したように一息つくと足を進める。
通じたことに嬉しくなって手を離すが、すぐに繋ぎ返された。
それは真っ暗になった社内で引っ張ってくれた時と同じように優しく包む大きな手。呆けるように見上げると、僅かに口元を綻ばせた先輩が映る。
「……行くか」
会社では聞かない柔らかな声に、全身が火照るのを感じた。
顔を伏せたまま頷くと、必死に“彼”は“雅”だと、自分は主人公の“代理”だと思い込みながら歩きだす。
じゃないと、勘違いしそうだ。
しばらくロータリーで待っていた時のような緊張が続く。
けれど途中、コスモス畑や簡易ふれあい動物園のおかげで会話が生まれ、海岸沿いに出た頃には自然体になっていた。