隣の彼は契約者
07*4
嫌々ながらも姉妹がいるおかげか、二次元にも花が咲く。
「それが高校の時に流行ってですね、私は会長が好きでした」
「俺は幼馴染派だったな」
「うっわ、マイナー」
「悪かったな……どうせ二次も少なくて、布教も兼ねた絵を投稿したぐらいだ」
「ええっ、描けるんですか!? 会長描いてください!」
「断る」
即答にブーブー文句を言うが、ぶっちゃけ話題は乙女アニメ。
これだけなら中高時代の男友達と変わらない。でも背中を叩くと澄まし顔が少しだけ苦笑に変わった彼に、私の頬は熱くなる。
会話が楽しいだけじゃない。
彼といることが楽しい。
そう認める度に、何かが形を成していくのを感じた。
* * *
レストランでの昼食を終え、木陰にあるベンチから海を眺める。
心地良い小波にウトウトと眠くなっていると熱い物が頬にあたり、驚くように顔を上げた。口を結んだ先輩から受け取ったのはホットの缶コーヒー。
海風に髪を揺らす先輩は少し間をあけて座った。
「お前……年内まで完結できるのか?」
「はいっ!?」
文句を言おうか悩んでいたせいで大袈裟なリアクションを取ってしまった。気にする様子もなく先輩は自身の缶を開ける。
「この間の打ち合わせで年内完結、発行は年明けだと決まったのに、先々週から更新してないだろ」
「え、えっと……」
ゴクゴクと飲んでいるのを横目に、そんな話をしていたのを朧気ながらも思い出す。先週から先輩に動揺し続けていたせいで、すっかりと執筆が滞ってしまっていることも。
顔を顰めた先輩に慌てて身体を向けると手を横に振った。
「だ、大丈夫です! あの後、大橋さんにアドバイスいっぱい貰ったので再構築中というか……あ、絵ってどれくらいで描けるものなんですか?」
話を逸らすように訊ねたことだったが、気になる問いでもあった。