隣の彼は契約者
07*7
「じゃあ、本文が送られてくるまでサイトを見ないでくれませんか?」
さっきとは違うハッキリとした声に先輩の目が丸くなる。
役得と言ったように、表紙や挿絵を描くのだから編集の次に彼が読者になるのは間違いない。完結したものを読んでもらいたいと言うより、これからどうなるかわからない展開を追ってもらいたくないのが一番の理由だった。それは我侭にも取れる願い。
晴れていた空は黄昏の光によって琥珀色に変わる。
眩しさが気にかからないほど見つめる私に、先輩は目を伏せた。
「……わかった。完結後の楽しみにとっておこう」
「あ、ありがとうございます!」
「その代わり……条件がある」
追求されなかったことに頭を下げたが、次いで出てきた言葉にそのまま停止する。ゆっくり頭を上げると傾げた。
「条件……?」
「俺のことを名前で呼んでくれ」
何かさらりと言われた気がしたが、理解できていない私はさらに傾げた。
「相沢先輩?」
「どこが変わった」
「ふみさん?」
「ぐっ、間違ってもないが却下……本名の方だ、まひろ」
苛立ったように呼ばれると背筋が伸びる。
身体を向ける彼の顔は不機嫌に見えるが、その目は真っ直ぐと私を映していた。『言え』と命令されているような目に、高鳴る動悸と熱くなる身体を無視して口が動く。
「ま……雅史……さん?」
躊躇いと恥じらいを含んだ声に、への字に結ばれていた彼の口元が緩やかな弧を描く。夕暮れと合わさった微笑に目を見開くと、伸びてきた両手が背中へと回り、抱きしめられた。