隣の彼は契約者
08*4
「ふふふ、散々ふみちゃんに泣かされたものね」
突然割って入ってきた声に振り向く。
いつからいたのか、楽しそうに覗いている女性がいた。
身長は大橋さんより低く、胸元まである漆黒の髪は毛先が緩く巻かれ、スパッツにシャツの上はロングカーディガンとラフな格好。でも、赤い眼鏡フレームが知的なイメージを想像させる。
「あ、お疲れさまです、明星先生!」
ぱっと明るくなった大橋さんにつられるように私も立ち上がる。
先生と呼ばれた女性の手には大きな封筒があり、作家さんか絵師さんだとわかる。そして覚えのある名前を記憶の中から探るが、答えが出る前に紹介された。
「まひろ先生、こちら私の受け持ち絵師で会社専属の明星 カオリ先生です」
「明星……っ!?」
正体に息を呑んだ私はその場で固まる。すると女性は鞄から取り出した名刺を差し出した。
「はじめまして、明星 カオリです。いつも『隣の彼との秘密』楽しみに読んでます」
「ははははじめましぅえええぇぇっっ!?」
まさかのカミングアウトに、名刺を受け取った手どころか全身が震える。
また夢だろうかと混乱するが、名刺には『漫画家兼イラストレーター 明星 カオリ』の他、アドレスや覚えのある少女漫画タッチの可愛いらしい絵が描かれていた。
(ほ、本物だああああぁぁ~~~~っっ!)
逃げることで頭がいっぱいだった先輩の時とは違い、歓喜が溢れる。有名絵師の登場。しかも自分の作品を知っていることに、金魚のように口をパクパクすることしかできない。