隣の彼は契約者
08*6
特に付き合いが長いと言い、先輩と歳も変わらないように見える明星先生から聞くと痛みが増す。大橋さんのように既婚者だとわかれば何かが違うかもしれない。でも、わからない今は名刺を握る手が震え、不安だけが募る。
もし、彼女“も”……。
* * *
「明星だと……?」
翌日の昼休み。相沢先輩と二人だけになった会社の屋上で、躊躇いながらも昨日のことを話した。が。
「即行名刺を捨てろっ!」
「はいいぃっ!?」
鬼気迫る命令に、ベンチに座っていた私は跳ねる。
フェンスに寄りかかった先輩は眼鏡のブリッジを上げるとブツブツと呟きはじめた。
「あの女に関わるとロクなもんじゃない……いつもいつも人を小突き回す上、横から仕事を奪っては増やしやがって……」
「会社で先輩が私にしてるのと同じじゃなしゅしゅみましぇん、ましゃししゃ~ん!」
余計だった罰に両頬を引っ張られる。
なんとか離してもらうと、涙目で頬を擦りながら訊ねた。
「明星先生のこと嫌いなんですか?」
「大っっ嫌いだ」
イケメン顔も般若に見える回答に呆気に取られるが、徐々に心臓の音が変わるのを感じる。
昨夜も今朝も“もしも”と考えるだけで不安だった。
けれど本当に嫌いなのか、尽きることのない愚痴を続ける先輩に胸の痛みと不安が消えていく。明星先生がどうかはわからない。でも先輩は違う……そっか、そっか。
「良かったあぁ……」
本音と一緒に、緩んだ口元が笑みを浮かべた。
目を瞠る先輩を他所に、緊張の糸が解けた私の目尻からは涙が零れ、慌てて拭おうとする。が、手を掴まれた。