隣の彼は契約者
08*7
自然と頭が上がり視線が重なる。屈んだ先輩の顔が、唇が目の前にあった。
「はいっ!?」
突然のことに驚いてのけ反るが、勢いあまってバランスを崩す。
それを止めるように受け止めるように伸びた反対の手が背中に回ると抱きしめられた。先日とは違い、胸元ではなく肩に顔が埋まるが、心臓の音は激しさを増している。
なのに耳元で聞こえるのは溜め息。
「お前……本当にそそっかしいな」
「いいい今のは先輩が悪いんですよ!」
「ほう? 頭部強打がお望みだったか」
「…………ありがとうございました」
渋々礼をいうと頭をぽんぽん撫でられる。
絶対S顔をしていそうなのに、僅かに笑っているような声も聞こえると簡単に熱が頬に集まった。心臓の音が早くてうるさい。でも、顔が見えないことを良いことに頬を肩に乗せると心地良さも増した。
それは好きになってる証拠。
小説の主人公よりも早く落ちるなんてバカだと思う。でも、この気持ちが本物なら読み続けてきた恋愛小説のように止めることはできない気がした。
たとえ小説のための契約だとしても、先輩にその気がなくても、この想いは本物だと信じたい。
そう言い聞かせるように、ゆっくりと瞼を閉じた。
* * *
「お前……徹夜でもしたのか?」
「いやあ、天気も風も良好。ビンゴ大会で貰った七輪でサンマ焼いたら美味しいと思いますよ~」
「おい、まったく話が繋がってないぞ」
昼休みも終わりに差しかかった廊下で足を止めた先輩が振り向くと私も足を止める。が、顔は窓に向いていた。ガラスに映るのは冷や汗をかいた自分。
理由は抱き合ったまま寝てしまったから。私が。