隣の彼は契約者
08*8
まさかまさか寝るとか! 数分でも男の人と抱き合ったまま寝るとか!! すっごい気持ち良かったとか口が裂けても言えない!!!
おかげで抱きしめられた理由も問えず口を閉ざしていると、一息ついた先輩は再び歩きだした。
「七輪って……明星から聞いたのか?」
話題転換に安堵すると、駆け足で隣に並ぶ。
「はい、謝恩会で交換してもらったって……先輩そういうの出るんですね。イケメン絵師って騒がれたんじゃないんですか?」
「ない……いつも欠席してるし、今年は無理やり編集長に出されただけですぐ帰った」
興味なさそうに話しているが、私は彼を知っている人が多くないことに内心ほっとした。すると顔を顰められる。
「なんだ?」
「い、いえ! やっぱりバレると恥ずかしいですよね。私も友達以外にはちょっと……」
「ああ、俺もお前と笹森以外は無理だな」
「ですよねー……ささもり?」
「あれ? まひろー!」
知らぬ名と一緒に女性の声で呼ばれ、足を止める。
見れば前から美鶴ちゃんが手を振りながらやってきた。隣にはスーツを着た一八十後半はある長身に体格の良い男性。前髪を上げた濃茶の短髪で、顔立ちは先輩に劣らず美形。口元の“へ”の字まで一緒。
見上げていると美鶴ちゃんは彼に手を向けた。
「はじめてだっけ? 営業課の課長、笹森 秋良」
「え?」
覚えのある名前に数度瞬きすると隣を見た。
「親友だ」
頷いた先輩に再び視線を上げると、笹森さんは小さく頭を下げ……はいいいぃぃ~~~~っっ!?