隣の彼は契約者

01*6



「バカか……」


 呆れたような声にビクリと肩が跳ね、謝罪の口を開く。が、大きな両手に肩を掴まれ、パソコンへと向き直された。驚くように振り向けば、背後に立った先輩は不満そうに言う。


「間に合いそうにないなら早く頼れ。俺の手が空いてたことなんて見ればわかっただろ」
「で、でも、先輩から預かったものを……」
「総務課はお前一人じゃないんだ。新人でもベテランでも一緒に片付けて帰った方が気持ち良いだろ」


 戸惑う私に構わず、横から長く大きな手が私のキーボードを打つ。
 その指先は魔法のように速くて見惚れていると、くすくす笑う声が聞こえてきた。


「なんだよ、相沢。嬉しいこと言ってくれるじゃん」
「じゃあ、私も頼んじゃおうかな~」
「断る。お前たちは本気を出せばいけるだろ」


 同じ総務課メンバーに辛辣な言葉が返されるとブーイングが起こる。
 それでもみんな笑っていて『頑張って、まひろちゃん』と応援までしてくれた。心の奥底から湧き上がる気持ちに薄っすら涙を浮かべていると、タンっと、キーボードを弾く良い音が木霊する。


「俺がするのはここまでだ。残りは……できるな?」


 充分すぎるほどの量ができていることに呆気に取られるが、彼は変わらず無表情。でも、真っ直ぐな目に大きな深呼吸をした私は勢いよく返事をした。


「はいっ!」



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