隣の彼は契約者
01*7
* * *
あれから全神経を集中させた私は無事に終えることができた。
当然定時まで間に合わず課長に頭を下げたが、のほほんと『頑張ったね』と褒めてくれた。いくつになっても褒められるのは嬉しい。
そして相沢先輩にも頭を下げたが『普通のことをしたまでだ』と、やっぱり素っ気無かった。
「先輩ってツンデレなのかな……」
時刻は夜の十時を回り、イルカのクッションを抱きしめたまま布団に寝転がる私は天井を見つめる。
一人暮らしのアパートはとても静かなのに、動悸が激しい。それは先輩を、肩に乗った手のぬくもりを忘れられないせいだろうか。
「あんなことされたら勘違いしちゃうって……」
熱くなった頬を隠すように顔をクッションに埋める。
それでも冷える気配はなく、携帯を持った私は今日のことを文章として打った。勘違いのリアルとは違い、好意でしてくれた……と、ご都合主義の展開を。
それをサイトにUPすると自然と苦笑が漏れた。
いいの。
都合よくても、自分の願望を叶える物語として許してほしい。
叶わない夢を抱くようにクッションを抱きしめた私は静かに瞼を閉じた。
* * *
翌朝。朝食のトーストを焼きながら携帯小説のサイトを見る。
マイページに移動すると『メールがあります』の赤い文字。まだ寝惚けているせいか件名など気にせず開くと読み上げた。
「えーと……まひろ様。突然のメール失礼します。私、○×出版社の大橋と申します。この度『隣の彼との秘密』を書籍化させていただきたく…………は?」
パッチリと目が覚めた────。