隣の彼は契約者
02*親友
嘘だ嘘だ嘘だ。
夢だ夢だ夢だ。
そう瞼を閉じたまま唱えると、開いた先にあった画面を確認する。
嘘でも夢でもない文字が並んでいた。
* * *
「うそっ、書籍化!?」
「しーっ! 美鶴ちゃん、しーっ!」
昼休み。会社近くのカフェで上げられた声に、慌てて私は人差し指を口元に持ってくる。
周りの目に気付いたのか『ごめん』と言った彼女は肩下まである亜麻色の髪を耳にかけた。向かいの席に座るのは中学からの親友で営業課に所属している、七瀬 美鶴ちゃん。
彼女の手には私の携帯があり、私と交互で見ると顔を近付けた。
「本当の本当?」
「私もドッキリだと思いたい……」
いまだに早鐘を打つ動悸を抑えるようにカフェオレを飲む。
けれど、返してもらった携帯を見れば落ち着けるはずがなかった。
画面には小説サイトのマイページに届いたメールが映し出され、執筆している『隣の彼との秘密』を書籍にしたいと書かれてある。