I love youを日本語に
そうしてわたしは喋ることをやめた。
気まずい空気の間に聞こえてくるのは自転車を漕ぐ音だけ。
「…わかったか。」
駐輪場に自転車を停めたところでトシがやっと口を開いた。
「何が?」
「俺の気持ち」
俺の…気持ち?
「訳も分からず、ただひたすら、無視され続ける俺の気持ち」
顔を上げることも、
視線を自分のつま先から離すこともできない。
「…ごめん」
唯一できたのはこの一言を口にすることだけ。
このあと言われる言葉はお説教だと思った。
絶対にガミガミ怒られるんだと思った。
なんで無視したんだ、とか。
何考えてんだ、とか。
なのに。
「許す。
ほら、行くぞ」
え?
え?
ええっ?
「なんだよ、その顔。
間抜けな顔がいつもに増して間抜けな顔になってんぞ」
「う、うるさい!」
「ほら、行くぞ。
最近忙しいんだろ?
朝練、早いんだろ?」
トシはニヤッと笑う。
その顔は、ウソをついてることくらいお見通しだぞ、と言っているようで。
「うるさいっ!」
「お前はうるさい、しか言えないんだな。
もっと本読んで語彙力をつけろ、語彙力を。」
「うるさいっ!」
「ほら、また。
ユウはうるさい!しか言えない人形だな」
クククッとトシは意地悪に笑う。
「……いって!!」
だから鞄で思い切り殴った。
そして、ふと、気づく。
わたし、自然にできてる。
トシと目を合わせることも、
言葉を交わすことも、
笑うことも、ちゃんとできてる。
何をわたしはクヨクヨ考えていたのだろう。
相手はトシだ。
トシ相手に何を悩むことがあったんだろう。
そのとき、スッと胸が軽くなった。
わたしはこうして、日常を取り戻した。