俺に溺れとけよ
「これは水野にだから言うんだけどさ…」


深刻な顔をする健くんは、私がいるテント下のベンチに腰掛けると泳いでいる紡を見ながら言った。





「紡の兄ちゃんも子供の時から水泳やっててさ…クラブチームとかも入ってて個人種目でも結構凄かったんだよ。紡も兄貴の影響で水泳始めたみたいなもんなんだ」

「そうだったの」


お兄ちゃんの影響が強かったんだね…




「でも紡が小学校5年の時にプールからの帰り道。兄貴と2人で歩いてたら突然車が飛び出してきて…務兄が紡をかばって車にぶつかって大怪我したんだ」

「え…」


事故と聞いて胸がズキンと痛くなる。





「命に別状はなかったけど…それで務兄の足が悪くなってさ。普通に生活してる分には問題ないんだけど後遺症が残ったんだ。水泳は諦めるしかないって医者にも言われたらしい」

「嘘…」


それって…もしかして…




「紡はその日から水泳を辞めたんだ。自分のせいで兄ちゃんが怪我したって自分を責めてた…中学入ってからも水泳部からずっと勧誘されてたんだけど…断り続けてたよ」


やっぱり…紡の性格からしてそうじゃないかと思った。





「だから俺からすれば…あいつがまた水泳やり始めた事が奇跡つーか…すごい嬉しかった。何でまたやろうと思ったのかはわかんないけど…兄貴ならわかるのかな」


そんなにお兄さんには心を開いてるんだ…知らなかったな。





「健くん…紡のお兄さんの連絡先知ってる?」

「知ってるけど…」


キョトンとする健くんに私は続けた。




「悪いんだけどお兄さんに連絡して…近々こっちに帰って来れないか聞いてみてくれないかな?」

「…いいけど何で?」
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