俺に溺れとけよ
「じゃあ最後紡ね」


相馬さんが振ると、蒼井くんはその場に座りながら口を開いた。





「蒼井紡。得意種目はクロール。よろしく」

「知ってるよ~」

「何回勧誘しに行ったと思ってんだ」


短くて面倒くさそうに言う自己紹介だったけど、低くて少ししゃがれた声でかっこよくて見とれてしまった。





「早速今日の放課後からこのメンバーで始めるよ~16時にいつもの場所でね!じゃあ私委員会あるからお先~」


相馬さんは慌てて階段を駆け下りて行った。まだ深くは知らないけどすごくしっかりしてる子なんだろうなと思い、自分にマネージャーの仕事がこなせるかどうか益々不安。





「いつもの場所ってどこ?」

「青空スポーツクラブだよ。夏以外はあそこの温水プールで練習するんだ」


川崎くんに聞くと明るい口調で答えてくれた。

そっか。だからいつもあのスポーツクラブのプールで皆を見かけたんだね…







「放課後一緒に行こう」


蒼井くんが優しい顔をしながら私を誘ってくれた。不安な気持ちは半分消えて私は「うん!」と頷いた。











「まだ皆来てないね」

「その間にたくさん泳ぐ」


放課後。約束通り蒼井くんとスポーツクラブに行くと、まだ部員達は誰も来ていなくて私達が一足早くプールに到着。

蒼井くんはすぐにウォーミングアップをしていて、泳ぐ気満々になっていた。






「そういえば…ちょうど気になったんだけど…」

「何?」


手を伸ばしてストレッチをする蒼井くんに、いつもの定位置について私はそっと話しかけた。





「水泳部…入部して良かった?」


さり気なく気になっていた事だった。

蒼井くんはずっと水泳部に入部するのを断っていたらしいから、本当は部活とかに入ってとかじゃなくて自由に泳ぎたいんじゃないのかなって…
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