俺に溺れとけよ
私はキッチンに立ち、誕生日にみんなからもらったエプロンをつけてお母さんが洗った食器を布巾で拭く。





「美海も16歳か…早いなぁ」

「うん…」

「色々心配だったけどこっちに引っ越して来て良かったね。あんたも学校楽しそうだしさ」

「うん。楽しいよ」


お母さんと時々話をしながら後片付けをしていると、おばあちゃんが玄関の方から小走りでやって来る。





「誰か来たの?」

「蒼井さんの所の紡くんが来たよ?」

「ええっ!?」


驚いて持っていた食器を落としそうになる。

蒼井くんが来た…?嘘でしょ??





「あら♪美海も男の子が訪ねて来るようになったのね~やっぱりこっちに来て良かった」

「どうしよ~私思いっきり部屋着だし!」

「いーから早く行きなさい。待たせたら悪いでしょ」


お母さんに背中を押されて急いで玄関でサンダルを履いて外に出ると、蒼井くんが外で待っていた。






「蒼井くん!」

「…急に悪いな」

「ううん、全然!」


誕生日に蒼井くんに会えるなんて夢みたい…嬉しいよ。




「どうしたの?もしかしてこれからプールとか?」

「いや…そうじゃなくて…」


何か言いにくそうな蒼井くんは私から目をそらすと、私にスっと白い紙袋を差し出した。





「今日誕生日だろ?」

「どうして知ってるの!?」

「自分で言ってたじゃん。8月20日だって」

「そうだけど…」


覚えててくれたんだ…





「ありがとう…」


蒼井くんから紙袋をそっと受け取ると、泣きそうなってぐっと堪えた。




「開けてもいいかな?」
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