俺に溺れとけよ
「うん、いいね。ありがと」


マフラーをした姿を私に見せてくれる蒼井くん。優しいな…





「あと…もう一つあって」

「え?」


私は持っていた紙袋から白い箱を出して、蒼井くんに差し出すと「開けるよ」と言ってからそっと箱を開ける。





「え、ケーキ?」

「そう。作ったの」

「手作り?」


驚きながらもう一度箱の中身に目をやる蒼井くん。

部活が終わってすぐ家に帰ったのはケーキを作る為だった。数日前から何度も練習したから多分不味くはないと思うんだけど…何しろホールケーキなんて作るの初めてだったからな。

蒼井くんが私にくれたのと同じで、私も苺の乗ったケーキを作った。喜んでくれるかな…





「…手作りで貰ったのなんて初めて」

「嘘だ~バレンタインとかいっぱい貰ったことあるでしょ?」

「チョコはあるけど誕生日ケーキはないよ」

「…あ、そういうことか。ごめん…図々しかったよね…!?」


彼女でも何でもないのにケーキ作るのってキモイかな。私も蒼井くんみたいにケーキ屋さんで買えば良かった…






「そんな事ないよ。嬉しいよ」


優しく微笑む蒼井くん。優しいな。






「あ~誕生日プレゼント貰ったの?いーわね~」


すると蒼井くんのお母さんが玄関から顔を出して、クスクスと笑いながら言った。




「いちいちいいから…」

「いーじゃない。ねえ美海ちゃん。今夜うちで晩ご飯食べて行きなさいよ~紡の誕生日だからってたくさん作っちゃってさ」

「え!」


蒼井くんの家で晩御飯!?




「そんなっ…ご迷惑じゃ…」

「大歓迎よ♪お家には連絡しといてあげる。さあ入って~」


蒼井くんのお母さんは玄関のドアを全開に開けると、鼻歌を歌いながら家の中へ入って行った。




「突然だけど大丈夫?」

「ぜ、全然!でも本当にいいのかな」

「水野が良ければ俺も歓迎するよ」
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