俺に溺れとけよ
「ちょっと行ってくるね」


蒼井くんと川崎くんに一言声をかけた後健くんを追いかけると、廊下の壁にもたれかかって私を待っていた。






「どうしたの?」


私が近づくと、健くんはポケットに手を入れて気まずそうに言った。





「…凪の奴何か怒ってた?今朝からまともに口聞いてくんねえんだよ」

「ああ!それね…凪にずっと漫画借りたっきりじゃない?それ返してくれないって言ってたよ」

「あ、忘れてた」


ハッと思い出した後で頭をポリポリと掻く蒼井くん。





「ふふ、やっぱり~まだ読んでないから早く返して欲しいんだって」

「わかった。今日中に返すよ」

「凪は漫画好きだからね」

「だったら先に読めば良くね?あいつが貸してくれるって言ったから俺は…」


ぶつぶつ文句を言う健くんを見てクスクス笑う。




「飲み物買ってくる」

「わかった」


健くんと別れ教室に戻ると凪の姿がなかった。





「あれ?凪は?」

「日直の仕事あるからって早めに戻ったよ~」

「そう…」


私は席に着ついて、食べかけのお弁当をまた食べ始めた。





「…健と何話してたの?」

「え…」


隣でおにぎりを食べる蒼井くんに聞かれ、私は箸で持ち上げた玉子焼きを思わずポロッと落としてしまう。






「たいしたことないよっ。何か漫画がどうのって…」


凪の名前出すのに迷った。

健くんが凪の事で私に話しかけたってことがわかったら…好きだってことがバレちゃうんじゃないかって思って…

秘密って約束したし…





「ふーん…」


半ば最後は笑ってごまかした形になったが、蒼井くんはそう言って私か目をそらした。


健くん…早く漫画返して凪の機嫌直るといいね。普段は無口なタイプだけど、あんなふうに私に凪のこと聞いたりしてちゃんと恋してるんだなぁ…

私は密かに健くんを応援する気持ちになっていた。この時、蒼井くんがどんな顔をしていたのか気づいていなかった…
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