俺に溺れとけよ
ザッ…

ザッザッ……


そして、5月の末になると学校のプール掃除が始まった。一年間溜まった汚れを部員達で徹底的に落とす。




「これが終わんないとうちらの夏が始まらないよね~」

「そうだね~」


プールの中にいる凪とコンクリート床を掃除する私は、そんな会話をしながら手を動かしていた。





「ちょっと健ー!遅いよ~」


少し遅れてプールに入ってくる健くんに、凪が怒りながら声をかける。




「ごめん。掃除あるの忘れてた」

「も~」


怒って手を動かす凪だが、2人はいつの間にかいつもの2人に戻っていて仲直り?したみたいで安心していた。

それに引き換え…


デッキブラシで床を掃除しながら、スタート台をタワシで磨く蒼井くんに目を向ける。



最近…何だか蒼井くんと気まずいと思うのは私だけかな…

話す時は普通に話してくれるんだけど、なんとなく壁がある感じがする。ここのところ居残りしてプールで練習ばかりしているし…

夏の大会に向けて気合い入れてるんだろうけど…何だか寂しいな。






「何すればいい?」

「あ、じゃあ…凪とプールの中やってよ。部長と川崎くん居残りしてから来るって言うし」

「わかった」


デッキブラシを持ってプールの中に入って行く健くんは、凪の隣に行って掃除を始めた。

私はそんな2人を眺めながらふと足下を見ると、ガラスのような物が落ちていることに気付きしゃがみこんで拾う。





ドスッ



「きゃっ」


しゃがんだ状態のままバランスを崩し、よろけると後ろに何かに支えられ振り返ると蒼井くんが私を受け止めてくれている。





「…見てて絶対よろけると思った」

「ご、ごめん!」


慌てて立ち上がろうとすると、蒼井くんの目の下の辺りに擦り傷がある血が出ていることに気がつく。
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