私のイジワルご主人様
あたしが何も言えないでいると、鴻上くんは小さくため息をついた。
「なんで何も言わないの。まったく世話のやけるワンちゃんだね」
鴻上くんはあたしの頬を指で軽くつついて仕方なさそうに微笑んだ。
「まあ、何があったのかは大体わかるけどね」
そう言って鴻上くんは視線をあたしから外して前を見た。
その視線の先には気まずそうな顔をした女の子たち。
「これはどういうこと?」
鴻上くんが女の子たちに問いかける。
「え…あの…、あたしたちはただ…ちょっとこの子に注意してただけで…」
「注意、ね。別にワンちゃんのことは迷惑だなんて思ってないよ。…それより」
鴻上くんは満面の笑顔をその顔に浮かべた。
…張り付けたような笑顔を。
それに気づかないらしく、笑顔を前にして女の子たちがホッとしたのがわかった。
鴻上くんが怒ってない、と思ったんだろう。
「何回も断ってるのに、何度も同じ手紙を入れるのはやめてもらえるかな。……迷惑だから。それに、オレは君たちみたいに裏で人をいじめるような人は大嫌いなんだよね」
にっこりしながらも、その言葉はキツかった。