きみが望めば
一段高いところに設けられたソファ席にアル王子は座り、その横にあたしを座らせた。

目の前には招待客たちの視線を遮るよう、音楽隊が移動してきていた。

今は静かな音楽が奏でられている。


「リノ。それが姫の名前?」
さらさらと髪を落とし覗き込むようなアル王子。

あたしは頷いた。
王子の甘い瞳が見つめている。

「リノ姫。」
甘く甘く見つめてくるだけで、アル王子はそれ以上何も言わなかった。
初めて見る、すこし悲しそうな笑顔が胸をちくっとさせた。

常に強引であたしがどう思っていようが構わないくらい不敵な感じがしていたのに。



その後、アル王子はパーティが終わるまで、あたしを隣から離れさせなかった。
手も握られたままで。。

あたしは嫌というほどの女性たちからの視線の矢に射られていたけれど王子は何が何でも手を放してくれなかった。

そんな王子を執事のお爺さんが止めに入るわけでもなく、あたしはただその隣に座っていた。

いいのかな。。ここにいて。


ガイドを辞めてしまったという、この世界のひとりになったと言ったラファは大丈夫だろうか。。
こんな暗闇の中、寝るところは?食べるものは?突然この世界で暮らすようになるってどういうことだろう?もうあたしの心も読めないって。。


どうか、ラファが無事でありますように。。



あたしは心の中で祈り続けていた。
パーティの音楽が静かめなのが幸いだった。


そんなあたしをアル王子が悲しげに見ていることまでは気が配れなかった。
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