sweet bitter valentine
アイツはすぐに教室に帰ってきた。

その手には、女の子が持っていた本命チョコはなかった。


今まで渡していった女の子たちに向けた笑顔や、「ありがとー」という言葉もなく、女の子は涙目になって帰って行った。

「…貰わなかったの?」
「ん?ああ、」
「かわいい子だったのに、もったいなーい」

冗談っぽく、笑顔で言ってみた。でも、アイツは笑顔になることなく、気まずそうに言った。

「……あんなの、貰えるわけねーだろ、義理チョコならともかく…」

本命とか、貰えるわけねえよ、

アイツはそう言って、次の授業の準備を始めた。

「……へえ……」

私は、上の空にそう呟いた。へえ───


へえ、本命チョコは、貰ってくれないんだ。

私は、さっき涙目で去っていた女の子を思い浮かべた。

あの子と私とじゃ、顔も、背も、髪型も全然違ったのに、あの涙目を思い浮かべると、あの子の顔が私の顔と重なって、あの子の顔は私の顔になって、私があの子のように涙目になって去っていく場面が思い浮かんだ。


本命チョコ、貰わないんだ。

アイツは、本命チョコ、貰わないんだ。

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