sweet bitter valentine
「高橋、アイツ結局一つも貰えなかったって、切ねーよな~」
「高橋君が気の毒になるから、そろそろやめたげてよ…というか、貰ってたみたいよ?一人、アンタがどっか行ってたとき貰ってた。」
「え!?まじかよっ!高橋一言もそんなこと言ってなかったぜ!?」
「恥ずかしかったんじゃない?それか相手に気を使ったか」
「…くぅ~~、いい男だねぇあいつも!男として尊敬するぜ!」

二人で高橋君の話をしながら、牡丹雪でドロドロになってしまった道を歩く。

どうでもいい話に、最初は一緒の傘でドキドキしていた私の心臓も、だんだん落ち着いてきた。

そうだよね、アイツにとっては何にもなかったも同然なんだから、そう気にすることもないよね。

チョコを渡すのは、やめておこう、そう思った。

いい友達でいたい。私はアイツと気まずくなりたくないんだ、気弱な選択だってことは分かってるけど、それでいいんだ。

そう思った瞬間、アイツが口を開いた。


「そう言えば、お前は誰かにチョコとかあげなかったの?」
「………」

へ…平常心平常心…

「うん、私は友チョコで十分楽しめるからね、こういうイベント…」

アイツが、本命チョコの話をしていると分かったから、そう言った。

アイツは、納得できない、という顔をして私の方を見た。

「え…?でも……」

あのチョコは…?と言おうとしたのだろう。でも、私はそれを遮って言った。

「良いんだ、私、そういうの似合わないし…私みたいな奴が渡したら、相手もびっくりしちゃうよ、渡さない方が、良いんだ」
「そんな事ねーよ!」

びっくりした顔をした私をよそに、アイツは怒ったように言った。
< 9 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop