天敵は恋仲
「いつになったら資料作り終わるんだよ」
「あと五分は頂戴」
「はぁ!?さっさとやれよ、ノロマ!」
「なら少しは手伝ってよ、ハゲ!」
講師室に響き渡るこの言い合いにも、同じ職場のみんなは慣れたように苦笑いを送る。
最初は流石に恥じらいがあったけれど、今ではそんなもの全くなく、言いたいことをとにかく大声で発している。
だって、そうでもしないと、ムカツクし!
「ハゲてねーだろ、俺は!」
「あーもー、分かったからどっか行って!」
「その夏休み期間の日程の資料だけなんだよ、俺が待ってんのは」
その、他の仕事は出来てんだよ、みたいな言い方にムカついて舌打ちをすれば、更に強めの舌打ちで返された。
必死に資料を作っている私は、青葉 やちる。25歳になった、とある塾の講師をしている。
そして、私に文句をまだ後ろでぶつぶつ言ってるのは、清水 真尋。同い年で、同じように塾の講師をしている奴は、言わば“天敵”。
「…はぁ」
「ため息つきてーのはこっちだっつの」
「(なんで聞こえてんの)」
地獄耳の清水(先生)を心の中で罵倒しつつ、資料の誤字脱字を確認して、出来ました、と言えば無言でそこを立ち去りプリンターの前に行くあたり、性格が悪いのが滲み出ている。
印刷された出来た資料を、荒い手付きでプリンターから抜き取る姿を見届けて、次の授業の準備をし始める。