先生と、ひとつ屋根の下
「俺の母親は、俺を身ごもったときに、俺の父親を亡くしたんだ。」
にんじんを切りながら、
ただ、先生の声に耳を傾けた。
「今のめぐみみたいに。
生活保護でやっと暮らしていってた。そして、悪い男に引っ掛かって、何度か自殺未遂もした。」
淡々と話す先生の背中がいつもより小さく見えた。
「児童相談所とかに預けられたりして。めちゃくちゃ荒れてたんだ、母親。何度も、お前なんか産まなきゃよかったって言われた。
でもやっと、母親はちゃんとした男を捕まえて、めぐみができて、結婚して、安定した生活を得られたと思ったのに。母親と結婚相手は、俺は未だしも、まだ首も座ってないめぐみを置いて何日も家を開けたりして。
また、何度も児童相談所に世話になって、小学校の高学年になったとき、やっと母親が更生して、迎えに来たけど、連れて帰ったのはめぐみだけで。
そのあと、祖父母に引き取られた。
実質俺は捨てられたんだ。母親に」
あまりにも衝撃的な話で。
気がついたら、先生の背中に、額をつけてた。
「…だから、ほうっておけなかった。あの日、退学届を提出しようとするお前を。どうにかして、救いたかった。」
「うん………先生に救われた。
だから、これからは、私が先生を救います」
「俺?…いいよ。多分今が最高に幸せなんだとおもう。ちゃんとした、家族は、お前が初めてだから。家族ができるっていう幸せ以上になると、逆に怖くなってくる。」
小さな笑い声。
でも、どこか哀しげで、切なそうな笑い。
そんな先生を、抱き締めた。