Dear,you

薄暗い廊下を通り抜ける。汚いのはここだけで、その他の部屋はかなり綺麗にしてある。まぁ、綺麗好きな早織のお陰だけど。

「遅い!?」なんて怒鳴られることを覚悟し、ドアを開ける。

「早織ぃ~。言われた通り飯食いに来たぞ?」

しかし、嫁の怒鳴り声は聞こえない。
ご飯って言ってたからこの部屋で間違いないはずなのだが……
姿も見つからないのだ。その代わりに聞こえてきたのは……


「…ぅゃ……うぅっ....ぐすっ」

「早織っ!?」

部屋のなかを急いで探すと、すみで膝を抱えて泣いている早織を見つけた。

そんな早織に焦りつつも、しょうやは優しく声をかける。

「どうした?何かあったのなら話してごらん。」

だが、早織から返ってきた言葉は、しょうやにとってあまり触れられたくないものだった。

「……今回しょうやの作ってるロボットって……2年前のあの事故の……女の子のための医療ロボット?」

「!?」

早織は勘がいい奴だか、こんなに早く気づくとは思ってもみなかった。
ずっとロボットのことを隠していた結果、早織を困らせて泣かせてしまった。ごめんな。

早織に落ち着きが見えてきた。
しょうやは早織にあのロボットのことを少しずつ、ゆっくりと話し出した。

「早織、覚悟して聞いてくれ。」

「話聞く前に覚悟なんかできないわよ。馬鹿ぁ‼」

でも、しょうやの目は真剣だった。
早織はしょうやの真剣な表情に何も言えなくなってしまった。

「早織、あのロボットはあの日の事故の……あの女子中学生の為のロボットだ。早織の予想通りだよ。」

あの日の事故………

それは2年前の交通事故のことである。
白い雪が少し積もった夜だった。
そんな夜、女子中学生二人をトラックが引いてしまう悲しい事故があった。

一人は軽症、もう一人は亡くなった。
トラック運転手は今も逃走中。ただ、特徴としては茶髪で髪の短い男性だと報道された。

いつもなら聞き流してしまうようなニュースだが、二人にとっては聞き流してはいけないニュースだった。

「軽症だったほうの女の子はまだ事故の傷が残っている。……ココロに。」

早織は黙りこんでしまった。
しょうやは話を続ける。

「だから、助けたいんだ。あの子のココロを。」

早織が口を開く。
「……そんなのっ‼罪を隠すことにしかならないじゃない!?トラックで引いてしまった罪を……ココロを救うことで消し去ることなんてっ……出来ない。
あの子の友達も……帰ってこない。」

「どうなるのか自分でも分からないんだ。でも、ココロを救うことでなにか変わるかもしれないだろ?
あの子にとっても、俺たちにとっても。」




部屋には早織のすすり泣く声だけが響いた。

「絶対に成功されるよ。俺の夢は人とロボットが助け合う世界を作ることだからね。」

早織が強く頷く。知ってるよ。とでも言うように。

「早織、あと少しで完成なんだ。一緒に見てくれるか?完成する瞬間を。」

そう言うとしょうやは、早織の手を引いて部屋を出る。
早織はしょうやの顔をじっと見て、前を向いた。もう涙は乾いている。


作った料理が冷めても、どれだけ汚い廊下を歩こうと、早織は下を向くことはもうなかった。

これから、ココロの歯車が動き始める…………
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