アイより確かなナミダ
「やーっと来たね。美夏ちゃん。いやあ、寒かったよ」
公園のベンチに彼は座っていた。
首にマフラーをグルグルと巻いて、膝下まで丈のある長い長いコートを羽織り、手袋をしている……その男性は、懐かしいセンパイだった。
どうやら、無事なようだった……。
そして、彼はずいぶんと寒がりのようだった。
「とっ、突然……連絡……して……くるからっ」
余裕な表情のセンパイに対して、私は肩で息をしながらバクバクと暴れ馬のごとく身体中をのたうち回っている心臓を沈めるように、中腰で荒く呼吸をしていた。
「突然……だけどさ。まあ、誘ったのは僕だし、美夏ちゃん、もっとゆっくり来てよかったんだよ?」
「そうしたら、責めるくせにー」
「そりゃあね。でも本心はやっぱり『やっと会えた!』って喜ぶだろうな」
「あはは、喜んでくれているなら、早く来て、良かったのかもね」
「そうだね。じゃあ、行こうか」
それは冬休み最終日の事だった。
いつもの様に朝はセンパイのメールが届いた。
マナーモードを切っている私はその着信音で起こされた。
さて、今日の朝はどうだったのだろう――そう思って開いたメール。
文面はいつもとは違っていた。
そして、とても短かった。
『十時に高校の前のバス停近くの公園に来て』
おはよう、もないメール。
私の心臓がきゅっと締まる。
何か、問題が起きたのだろうか? と私は焦った。
メールが届いたのが――起きたのが、朝の九時半を過ぎていた。
すぐに支度をしていけば、時間には間に合うはず……。
それからのことは、切れ切れにしか思い出せない。
今朝のことだけど――それだけセンパイのことが心配でしょうがなかった。
なのに。
「いやあ、やっぱり元旦から一週間過ぎると人少ないよね、神社!」
「…………」
私とセンパイは二人で世間からは少し遅れた初詣に来ていた。
もちろん、気を張っていた私はこの展開を予想できるはずもなく、先程から脱力中。
「元気ないねえ……。お腹すいたの?」
「ええ、まあ」
確かにそれもあった。
朝ごはんを抜いて走ってきたのだ。
空腹を問われたのも相まって私のお腹は盛大に鳴った。
「くくっ……。分かった、お礼とお詫びに初詣が終わったら近くのファストフードでおごってあげるよ。好きなの食べていいからね」
「ほ、ホントに? やった!」
少し元気を取り戻す。
そして、元気を取り戻してみて気づいてしまった。
センパイと初めて、外で会った。
しかも、なんかデートっぽい。
境内に入ってから、本殿まで、短いはずの道をすごく遠いと感じた。
そして、二人の腕が触れるすれすれの距離が、いつかもっと近づいてください、と願っていた。想っていた。
「お賽銭は、いくらにする?」
「御縁(ごえん)、で五円にします」
「あ、僕も五円玉あった。じゃあ……」
センパイが代表してガランガランと大きな鈴を鳴らす。
二礼二拍手一礼。
願ったことは三つ。
神様――。
欲張りだと思うだろうけれど、どうか叶えてください。
センパイとこれからも一緒に入られますように。
センパイにもっと好かれますように。
センパイのことをもっと知れますように。