アイより確かなナミダ




「それにしても、美夏ちゃんは本当に――よく食べるね」

 神社を後にし、約束通りセンパイにお昼をごちそうになった、その帰り道。
 センパイは私の家まで送ってくれると言い出し、走って二十分……歩いて一時間弱の道のりを並んで歩いていた。

 センパイはどうやらゆっくり歩く人のようで、歩幅は私よりも大きいけれど私が元から小幅の早足なので、結果お互いに気を使うこともなく並んで歩けていた。

「美夏ちゃんは、来年受験生だねえ。進路のご予定は?」

 少し茶化すような言い方で尋ねられた。
 私は密かに(センパイと同じ学校に)と思っていたため、一瞬答えに窮する。

「どうだろう……。新学期と進級後の全国模試の結果で、安全圏を狙う、かな」

 この言葉に嘘はなかった。
 センパイに出会う前は、ずっとそう考えていたからだ。

「ふうん」
「センパイは?」
「ん? 内緒」
「えっ……ず、ずるい!」
「あはは。まあ、これから決めるさ」
「これから?」

 嘘だ――。
 もうこの時期にすでに進路が決まっている三年生だっているはずなのだ。
 それなのにセンパイがなにも考えていない……そんなわけがあるはずないのだ。

「な、なにも考えていないなら……」

 私はぎこちなく笑っていると自覚しながらも挑戦的にセンパイへと向き合った。

「なら?」
「今、将来を決めましょう」
「ん? それは、美夏ちゃんが決めてくれるのかな?」

 私は大きく頷く。

 身体が熱くなる。
 これでセンパイとの関係が変わってしまうだなんて思ってなかったから――。

「私、センパイのことが好きです。ずっと好きでした。私は、センパイと一緒にいると、楽しいし、安らぐし……だから、センパイと一緒にいたい。ずっとずっと……」
「…………」
「だから、センパイはこれからも私と一緒にいてください」
「…………」

 なにも言わず、なにも感じない、分からない表情をしている。
 思わず不安になって「センパイ?」と声をかけた。

「せ、センパイっ!」
「あっ……ごめん、フリーズしてた」

 センパイははにかみながら首を傾げる。
 その表情がぎこちないのを私は見逃さなかった。

「えっと、その答え……ちょっと待っててくれる?」
「あ、は、はい」
「うん――じゃあ、もうすく美夏ちゃんの家だね。じゃあ、またね」

 センパイはすぐに去ろうとする。
 ここでようやく私は、今までのお互いの関係に亀裂を入れたのだと気づいた。
 ダメ、なのかな。
 でも、待ってって言われたから、待とう。

「またね、センパイ。あけましておめでとうございました」

 雪が微かに舞い始めた。
 その幻想世界の中をセンパイは駆け足で……柄にもなく速い足取りで去っていった。
 その背中が消えても私はその場から離れられなかった。

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