アイより確かなナミダ



「彼女は――先生なのに、彼女っていうのはどうかと思うけれど、そこは無視してくれると嬉しい――とても、不器用な人だった。副担任だったけれど休みや遅刻しがちだった担任に変わって仕事をすることが多かったんだ。だから余計にミスを多くしていた。当時、僕は学級委員でね……押し付けられただけなんだけど。まあそういうことでその副担任の彼女と接する機会はどの生徒よりもあったと思う」

 だんだんと口調が沈んでいく。
 でも、センパイは話を続けるべきなのだ。
 私が聞きたいからではない。
 センパイが、過去と決別するために、吐き出す必要があるのだ。
 だから私は相槌を打って話を促した。

「その、彼女の不器用さが本当に見ていられなくて。僕がそばに居てあげなくては……、フォローをしてあげなくては、と思っていたんだ」

「だけど、お笑い草だ。僕が彼女に『守るから。いつでもそばにいる。たすけるから』そう言ったけれど、笑って『ダメよ、先生をからかっちゃ』って言われた。僕は真剣だった。その思いは伝わったはずだった。けれど彼女はメンツと教師としての生活のために、僕の告白を断った。……しかし、結局彼女はメンツを守りきれなかった」

「彼女と僕が二人っきりでよく会っていたのを、見かけた生徒が複数いてね。それを告げ口されて……そして彼女は学校を半年で変えられてしまった。どこか、遠い県の、生徒の少ない高校だとか」

「センパイ……」

「彼女を不幸にしてしまったんだよ、結局ね。それならいっそ、メンツも捨てて僕を受け入れてくれればよかったのに。そうすることでさらに不幸になると思った彼女は、この学校を去る、その日。僕にこう言って別れの言葉に変えた」

『あなたのこと、嫌いじゃないわ。でも、あなたに出会わなければ、きっと、この学校を好きになれたかもしれないわ』
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