アイより確かなナミダ
私は息を呑んだ。
その当時の先生を私は知らないけれど、でも嫌いじゃない、というのはきっと、センパイに対しての最後の強がりだったのだろう……。
「それからだよ。僕は人を好きにならないと決めた。人にも関わらないとね。だから学校に来てもほとんどの時間をあの屋上前で過ごしていた。キミが来るまで、一人で寂しく平穏に」
にやりと、まるでいたずらっこが仕掛けがバレてしまって、困った末に笑ったような、そんな悲しい笑った顔。
「キミを追い出すつもりで、キミの辛さや悩みを暴いた。今までもそうやって人を遠ざけていたからね。好意を抱かれたのは計算外だった。僕がキミに惚れたのも……計算外だった」
私に、惚れている。
センパイの、告白。
嬉しいはずなのに、結末が見えてしまったアンハッピーエンドの映画を見ているような、悲しさが胸の中に溢れてきている。
「ねえ、美夏ちゃん――最後にキミのスケッチを描くことができたら……きっと僕は、心置きなく気持ちの整理をつけられると思うんだ。今なら、お互いに傷つくことなく、別れることができる」
「い、いや……センパイと別れてしまうぐらいなら、私の絵を描かせたくありません」
私の両まぶたには涙があふれていた。
零れないように、必死に目に力を入れるけれど、それでもやはり――一筋、涙がこぼれてしまった。
「そんなこと、言わないでくれ。今更、何を言われても……僕は決めたんだ。ほら、言っただろう? 僕は天邪鬼。ひねくれ者だし、世間に、他人に……逆らって生きるのさ。僕のことを好きだと言ってくれるなら……。僕のことが好きなら……。だから――キミの絵を、描かせてくれ」
私の顔を優しく持ち上げて目を合わせるセンパイ。
その真剣な瞳を見て、私は思わず……頷いてしまった。