アイより確かなナミダ
「センパイっ! なんで言ってくれなかったんですか!」
始業式を早速サボっていつものあの場所にセンパイを拉致してきた私。
センパイは照れくさそうに頭を掻きながら答える。
「いやあ、ね。実は美夏ちゃんと出会った時から出席日数が足りてなくてね。で、いっその事留年しちゃおうと……」
「そうじゃなくて! そうだけど! なんで言ってくれなかったんですかって……」
「サプライズになった?」
「そりゃあ、なりましたよ……」
叫び疲れて一気に脱力していく私。
その瞬間、こらえていた涙が再び溢れてきた。
「あ……ごめんね、秘密にしてて」
「ごめんねじゃ、すみませんよ……。だって、だって……」
「……だって?」
センパイは辛抱強く続きを待つ。
「卒業式でないから、もう会えないって言うし」
「卒業できなかったから行く必要なかったし」
「連絡先は消されるし」
「電話を機種変更しなきゃいけないから、変わるなら消さなきゃと思って」
「私とは会えないって言って」
「それは……撤回させてほしいな」
彼の顔から笑顔も困った表情も消え、代わりに悲しそうな表情を見せた。
「本当は、本当に……。もう、会っちゃいけないって思ったんだ。僕はキミのことを思うと、もやもやしてしょうがなかったんだ」
「私、迷惑かけた……?」
「そうじゃないんだ。……なんて言えばいいんだろう。そうだな……。キミのことを思うと、夜も寝られないし、話したい、会いたいって気持ちが、少しずつ膨れていくんだ。そばにいたい、離れていたくないって」
「それって……?」
「キミのことが、やっぱり好き、だったんだ」
そう言ってセンパイは私の手を握って胸の上に置いた。
「聞こえる? 僕の脈は、キミを思うとこんなにも激しく打つんだよ。きっと、あのまま――バレンタイン以来会わないままでいたら、今頃僕の心臓は、脈は、止まっていた」
センパイの目にも、気づけば涙が溜まっていた。
それは決して、私の涙でぼやけているから、とか、そんな理由じゃない。
私と会えずにいたことの悲しみと。
私と再会出来たことの嬉しさで……泣いていたんだ。
「ああ、また涙が……。美夏ちゃんは泣き虫なんだから」
「だって……」
「でも、キミの涙が、大好きだ。澄んだ空のように、キレイで輝いている、その涙が――。そしてその涙が僕のために流れているんだと思うと、この上なく幸せなんだ」
「ふ、普通なら笑顔が好きって言うんじゃないですか?」
「ははっ。言うねえ」
センパイはそっと手を離し、ポケットからハンカチを取り出すと私の目元を優しく押さえて涙を拭きとってくれた。
「笑顔と同じくらい、キミの涙が好きなんだよ」
そう言ってニコッと笑ったセンパイの顔は、裏も表もなく、ただ私だけを見つめていた。