大好きな君の嘘
翌日の昼過ぎ


「帰れそうですか?」


与一が迎えに来た


山崎も様子見に屯所に戻った


「なんとか、動けるし
帰りましょ!
皆さん、ホンマにお世話になりました」


これ以上、迷惑だろうと気を使い

帰ることにした



「菊、なんかあったらいいや!?」

「お兄ちゃん!おおきに!」

「いつでも、気晴らしに来い」

「へえ おおきに!」


にっこりと土方と笑い合ってから


山崎と着物を替え


与一と共に、置屋へ帰った


「与一はん、おおきに」

「君菊… ヘラヘラ笑うなや!!」

ドンッ


両手を抑えられ、背中を壁にぶつけた


「与一? どないしたん?」

「俺が、どんな想いでお前を見てるか…
許婚がおる身で、男に色目を使って…
今まで、俺といて俺に笑ったことなんか
一度もなかった
それなのに
あいつらには、簡単に笑いやがって!!」

「色目やなんて… 痛っ!!」

強く手首を握られ、顔を歪ませる


「忍術使えるのに、なんで二度もさらわれた?男に、うつつを抜かしてたんや!!」

「…与一」

「笑えよ!!俺にも、笑えよ!!」


与一の豹変ぶりに、恐怖する

まだ、体を動かし辛いせいで
逃げることも出来ない


顔を上げると、与一の顔が近づく

「いやっ!! やめっ…」


どんなに逃げようと足掻いても

与一は、口づけをやめようとしない


体をなぞる手の感触に、襲われそうになった時の恐怖まで、蘇った


君菊は、与一に口づけをされたまま

気を失った












目を覚ますと、自室で

そばには、琴がいた


「お姉はん どうどす?」


ぼーっと琴を見つめ


「おおきに…」


それだけ言って、また目を閉じた


(怖かった…)

土方とは、まるで違う
乱暴な口づけ

体を弄る手


琴にこの恐怖がバレないように


ずっと寝たふりをした





(与一…なんでなん?
なんで、うちのことあんなに乱暴に…)










どれだけ考えても、君菊は与一の気持ちがわからなかった














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