大好きな君の嘘
君菊が仕事に復帰すると

すぐに悪い噂が広まった

与一を庇って自分で足を滑らせたと
嘘をついたことで、恋仲なのでは?

と、もっぱらの噂


目撃した島田屋の主人と、君菊が会った


「島田屋はん、うちの下男が勤まる者は
与一の他にいてしまへん
うち、我が儘ですので…
恋仲では、ありません
うちには、許婚はんおりますよって
どうか… 見間違いやと言うておくれやす」


島田屋の主人が、君菊と二人きりで酒を飲むという、条件付きで

願いが聞き入れられ

すぐに噂も収まった


君菊は、この頃

客の前でしか、嘘笑いも出来なくなった






「島田屋はん、おおきに!
さぁ 今日は、ゆっくり飲みましょな~」


手を握られたり、肩を引き寄せられるだけでも、怖かった

君菊の顔色が悪くなり、島田屋は心配した


「どないしたんや?酔うたんか?」


島田屋とは、つきあいも長く
話しやすいが、二人きりは初めて
取り立てていやらしく触られたとかでないのに、どうしたものかと

目を泳がせた



「うち… 」

「怖いことないぞ? 楽しく酒を飲もう」


優しく微笑み、君菊の背中を撫でた

聞かないでくれた気遣いが嬉しかった


「おおきに… 飲みましょ!」


お互いに酒豪であるため、水と同じ

酔うことは、なかった







島田屋を見送り



新選組の御座敷で舞を披露して
今日の仕事が終わった


以前は、土方の隣に小楽がいても

仕事だからと、気にもならなかった

土方の隣に自分の場所が無いことを

思い知る

挨拶をして、部屋を出た



いつもの中庭で、月を見上げた



「よぉ!久しぶりだな…具合は、どうだ?」




顔なんて確認せずに、土方だとわかる


君菊は、冷たい視線で土方をチラリと見て


「土方はんに、関係ないことどす」


あまりの冷たさに、土方が驚く


「どうした?なんかあったのか?
俺に言いにくければ
山崎と時間を作ってやろうか!?」


「君菊」


与一が丁度迎えに来た


「あっ すみません
お話し中でしたか?」

「いえ、終わったとこどす
帰りましょか…」


さっさと帰る君菊の後ろ姿を見送る

途中、与一が振り返って土方に頭を下げた




(皆…敵や
心を許したらあかん…)








< 32 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop