大好きな君の嘘
「君菊」

「迷惑かけんようにしますから!!」

「迷惑ってなんだよ…俺は、父親なんだ
頼ってくれよ」

「そんな訳には……だって……
土方はん 許嫁がおるんやろ?」

「いつの話だ
とっくに破断になってるよ」

「琴はん、うちに会いに来たんやもん
せやから…てっきり」

「あぁ 深雪が亡くなる前くらいか
来たな…
まさか、おめぇんとこ行くとはな
何話たんだ?」

「なんも
挨拶しただけ」

「それで、よく誤解したもんだな
ふっ 君菊、俺が名前をつけていいか?」

「是非!!よろしくお願いします!!」

「考えておく
体がきついだろ 寝てろ」

「はい」






緊張で寝るどころか目が冴えた

子供泣くと、乳をやり

おしめを替えたりした


「横になっとけって
無理すんな!」


土方にいくら言われても

子供から目を離すのが嫌で、ずっと見た





土方が仕事で出掛け、帰った時



子供を抱いた君菊の様子がおかしかった

そばに行くとその理由がわかった


君菊を子供ごと抱きしめた


「名前……考えたんだ
『寿』(ヒサ) どうだ?」

「ええ名前どすな……お寿はん
……堪忍な…」



土方と君菊の娘 寿 は、産まれて二日で
この世を去った


我が子を亡くしても、涙を流さない

君菊が不憫でならなかった



「帰りますね…お世話になりました」




「菊!!」


知らせを聞き、なかなか抜け出せなかった
山崎が君菊を抱きしめた


「残念やったな……菊」

「ちょっと、うたた寝してん……
目が覚めたときは……もう
息してへんやった
うちのせいや……ちゃんと見とかな
……あかんかったんや
お兄ちゃん……」


静かに君菊が涙を流した


土方は、君菊の背中を撫でた


少し泣いてから


「帰る」

「菊 産後は、安静や
床上げまで副長の世話になり
置屋で大人しくでけへんやろ?
俺が身代わりしとくさかい」

「与一には、知られてる?」

「心配してたから、言ったで」

「ほな、与一に協力して貰うさかい帰る」

「菊!!いうこときけ!!
無理したら、ホンマにあかんのや!!」

「大丈夫… 帰ってまた、しばらく
籠もって寝とくさかい
ホンマ…ちゃんと寝とく
あれやったら、様子見に来たらええやん」

「約束やで?」

「うん」


 





山崎に付き添われ、置屋に戻った


「お兄ちゃん…うち、土方はんに
申し訳なくて……
今度こそ、会わす顔ないわ
体調がしっかり戻ったら、御所に戻る
忍として生きようと思う」

「ええんか?大丈夫なんか?」

「うち…もう人の命はとらへん
寿のことは、うちが人の命を奪った
罰が当たったんや
とられてわかるやなんて、アホやなぁ」


何日も布団から起き上がれなかった

与一は、懸命に看病した




寝言でさみしそうに「かえりたい」と何度も言う




君菊への恋心がまだある与一は、君菊に
何かしてあげられないかと考えた


その答えは、見つからず


ただ、そばにいたい一人にさせたくない


そう思った



「与一 おおきに
いつ目が覚めても、そばにおるねんな?
与一も体に気をつけてや?」


心配をかけまいとニコニコ嘘の笑いをする






(与一がそばにいてても、寿がおらん…
うち…一人になってしもた……)






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