大好きな君の嘘

浪士組の宴には、必ず君菊が呼ばれるようになった

というのも


「こっちに座れ!!」

「へぇ そないに慌てて呼ばんかて
参りますえ~ 芹沢はん」


浪士組 局長 芹沢鴨が、君菊を気に入ったからだ


大体の女は、芹沢を恐がり逃げる


しかし、君菊は芹沢を上手く酔わす


酒を飲むと暴れる芹沢が、君菊の前では
上機嫌なうえ、大人しい




浪士組の宴には、よく酔っぱらいが息巻いて乱入する

「琴はん 与一はんを呼んどくれやす」

「せやけど…」


琴が躊躇うのも無理はない


浪士組の相手をするたび、君菊が謹慎になるのだから



「早う」
「へぇ」


琴が部屋を出る


「君菊 儂が行く!」


芹沢が立とうとするが、君菊が止める


「この島原で、浪士組はんが揉め事起こしたら、嫌われますえ?
それでなくても、評判悪いのに」


明け透けに、そう言うと


芹沢が笑う


「すでに悪いなら、気にすることもないわ
はっ はっ はっ」



刀を抜き、酔っぱらい浪士が斬りかかる

ドカッ



「女に背後から斬りかかるやなんて、卑怯やなぁ」



浪士の刀をかわして、鳩尾に肘を入れた

一発で男が倒れた


持っていた刀が、畳に刺さった





「君菊!!お前は、また!!」


「番頭はん、すんまへん
畳を傷つけてしもた……」


「……」


大きな口を開け、番頭が呆れ顔になった



そこに、土方が立ち上がり

君菊の前へ


「馬鹿野郎!!!
畳くれぇ代えりゃいい!!
おめぇが斬られたら、どうすんだ!!!」

「どうもこうも……
うちの代わりかて、ようさんおるし
何遍も謹慎してたかて、誰も困りませんし
死んだかて、なんの不都合もあらしまへん」


その場にいた全員が、言葉を失った


「???
えと…… 謹慎します ほな……」



場の空気がおかしいことに耐えきれなくなった為

そそくさと逃げようとした君菊に

番頭が頭を抱えて言った


「はぁーーー謹慎は、無駄や!せんでええ!
ちっーとも反省してへん!
琴がお前みたいに、刀持った男はんに
喧嘩挑んだら、敵わん!!
大人しくするって言うまで、仕事禁止や!」

「それ、謹慎と同じやん?」

「やかましい!!天神になっても、口答えばかりしおって!!問題ばかり起こすな!!」

「へえ」


首を傾げながら、部屋を出た


廊下を歩きながら


(土方はん… 
なんで、怒ってはったんやろ…
ホンマに不思議な男はんやな…)







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