もしも沖田総司になったら…
迫る死期
西本願寺を屯所として新たに新選組たちが活動を始めてから一気に身体の具合が悪くなったような気がする。とにかく布団から身体を起こすことが辛くなってきたのだ。そして、微熱程度と思っていた身体から発する熱も微熱程度では済まなくなってきているし、高熱で魘されることも多くなった。咳き込む頻度も増え、そのたびに喀血をすることも増えてきている。
もしかしたらこの身体の死期というものはもう間近に迫ってきているのかもしれない。沖田総司の生涯は早いものだったらしいが、それにしてもこれは病気の進行が早すぎるのではないだろうか?以前までは数日置きに医者を呼んで具合を看てもらっていたもののどんな薬を服用しようにも身体の具合がまったく良くならないものだから毎日のように医者には屯所となった西本願寺に足を運んでもらっている。
「…労咳は徐々に症状が重くなるものですが、これは今までに見たことがないほど進行が早い例です。…土方さんも、念のためご覚悟をしていたほうがよろしいかと…」
私はすっかり布団に包まれ寝込む生活が続いてしまったために部屋に医者と事情を知っている土方さんも部屋に来てもらっている。
「……薬は…少しでも症状を抑える薬は無いのか…」
「…残念ながらこれ以上服用を続けたとしても効果はみられないかと思われます…」
「…っ…くそ…」
土方さんが何に対して腹を立てているのか分からなかった。大切な部下が自分よりも先に死ぬかもしれないということに対してだろうか?戦地に立てば上官は後ろに控え、部下のほうが先陣をきっていくのは当たり前のことだ。
「…ひ、土方…さん…。そんな、顔しないで…くださいよ?」
土方さんはいつでも冷静に状況を見て、判断してくれなければならない人なのだ。鬼の副長なのだから、もっと非情にならなければならないのだ。
まずい、咳が続くせいで胸も苦しいが息をするのも辛くなってきてまともに言葉も発せなくなってきてしまった。もっと言いたいことがあるのに、土方さんにはもっとしゃきっとしてくれないと駄目だとか、たまには息抜きをすることも大事だとか、仕事ばかりに時間を費やしていないで遊ぶことも覚えないと駄目だとか…いっぱいいろいろ言いたいことがあるのにそれが口に出せない。
もう、私はここまでなのだろうか…。
今、ここにはいない斎藤さんにもたくさん言いたいことがあるのに。部屋を訪れてくれるたびに甘味を届けてくれて嬉しかったこと、襲われ掛けたときとても助かったこと、とても信じられないような話しを黙って聞いてくれたこの時代の最初の人、たくさんお礼を言いたいのにそれが言葉にならずに代わりに咳ばかりが口に出てしまう。
「土方さ…お願いが、ある…ですけど…良い、ですか…?」
「…なんだ?」
「…沖田の刀…実家に…沖田のお姉さんに…預けて、ください…きっと…一番、安心出来る場所だと、思う…から…」
「…分かった。必ず守る、約束だ」
「…それから…すみません…沖田が…戻って来ても…帰る場所、無くて…ごめんって…言って、ください…」
「……そんな下らないことは自分で伝えろ、馬鹿…」
「はは、そう…ですね…」
言葉を発することもとてもツライなかでのお願いだというのにそれは叶えてくれないのかと思うと土方さんのことがこれほどまでに憎らしく思ったことなんて出会ってから今まで感じたことは無かったのに今は憎い。
こっちは病院なのに…。
まさか土方さんに看取られて死ぬなんて思いもしなかった。沖田は現代でどんな生活を送っているだろうか。あっちもあっちで現代社会というものの進歩に混乱しているところもあるかもしれないけれど、病気でツライ想いをしていないなら…良かったとも思えた。私が沖田総司の病を持って逝くから、沖田は健康で私の人生の分まで生きて欲しい…そう思いながら視界が霞んでいき自然と重くなってくる目蓋を閉じながら土方さんが「畜生…」と泣き声にも似た声で呟きを洩らしていたような気がするがもう私には本当に土方さんの呟きだったのか単なる聞き間違いだったのかさえ分からなかった。
もしかしたらこの身体の死期というものはもう間近に迫ってきているのかもしれない。沖田総司の生涯は早いものだったらしいが、それにしてもこれは病気の進行が早すぎるのではないだろうか?以前までは数日置きに医者を呼んで具合を看てもらっていたもののどんな薬を服用しようにも身体の具合がまったく良くならないものだから毎日のように医者には屯所となった西本願寺に足を運んでもらっている。
「…労咳は徐々に症状が重くなるものですが、これは今までに見たことがないほど進行が早い例です。…土方さんも、念のためご覚悟をしていたほうがよろしいかと…」
私はすっかり布団に包まれ寝込む生活が続いてしまったために部屋に医者と事情を知っている土方さんも部屋に来てもらっている。
「……薬は…少しでも症状を抑える薬は無いのか…」
「…残念ながらこれ以上服用を続けたとしても効果はみられないかと思われます…」
「…っ…くそ…」
土方さんが何に対して腹を立てているのか分からなかった。大切な部下が自分よりも先に死ぬかもしれないということに対してだろうか?戦地に立てば上官は後ろに控え、部下のほうが先陣をきっていくのは当たり前のことだ。
「…ひ、土方…さん…。そんな、顔しないで…くださいよ?」
土方さんはいつでも冷静に状況を見て、判断してくれなければならない人なのだ。鬼の副長なのだから、もっと非情にならなければならないのだ。
まずい、咳が続くせいで胸も苦しいが息をするのも辛くなってきてまともに言葉も発せなくなってきてしまった。もっと言いたいことがあるのに、土方さんにはもっとしゃきっとしてくれないと駄目だとか、たまには息抜きをすることも大事だとか、仕事ばかりに時間を費やしていないで遊ぶことも覚えないと駄目だとか…いっぱいいろいろ言いたいことがあるのにそれが口に出せない。
もう、私はここまでなのだろうか…。
今、ここにはいない斎藤さんにもたくさん言いたいことがあるのに。部屋を訪れてくれるたびに甘味を届けてくれて嬉しかったこと、襲われ掛けたときとても助かったこと、とても信じられないような話しを黙って聞いてくれたこの時代の最初の人、たくさんお礼を言いたいのにそれが言葉にならずに代わりに咳ばかりが口に出てしまう。
「土方さ…お願いが、ある…ですけど…良い、ですか…?」
「…なんだ?」
「…沖田の刀…実家に…沖田のお姉さんに…預けて、ください…きっと…一番、安心出来る場所だと、思う…から…」
「…分かった。必ず守る、約束だ」
「…それから…すみません…沖田が…戻って来ても…帰る場所、無くて…ごめんって…言って、ください…」
「……そんな下らないことは自分で伝えろ、馬鹿…」
「はは、そう…ですね…」
言葉を発することもとてもツライなかでのお願いだというのにそれは叶えてくれないのかと思うと土方さんのことがこれほどまでに憎らしく思ったことなんて出会ってから今まで感じたことは無かったのに今は憎い。
こっちは病院なのに…。
まさか土方さんに看取られて死ぬなんて思いもしなかった。沖田は現代でどんな生活を送っているだろうか。あっちもあっちで現代社会というものの進歩に混乱しているところもあるかもしれないけれど、病気でツライ想いをしていないなら…良かったとも思えた。私が沖田総司の病を持って逝くから、沖田は健康で私の人生の分まで生きて欲しい…そう思いながら視界が霞んでいき自然と重くなってくる目蓋を閉じながら土方さんが「畜生…」と泣き声にも似た声で呟きを洩らしていたような気がするがもう私には本当に土方さんの呟きだったのか単なる聞き間違いだったのかさえ分からなかった。