もしも沖田総司になったら…
幕末の街中へ
時は、幕末。
街中はもっと殺伐とした雰囲気が感じられるのかもしれないと内心ではびくびくしていた私だったが、数々のお店が並ぶ通りに向かうと意外にも街中は和やかな雰囲気が感じられた。
普通に買い物を楽しむ人がいれば客を呼び込もうと声を街行く人に声を掛けているお店の人もいて、明るい日差しの下では着物に身を包んだ人たちの流れが出来ており、なんとも幕末の世とは思えなかった。
これが昼間の顔なのかもしれない。夜も更けてくるとこの通りでは裏の顔を見せるようになる。特に裏通りにおいては日々、武士たちの斬り合いが行われていると聞いているし、そのために新選組も夜の市中見回りが欠かせないのだそうだ。
「うわー…ん?何か良い匂いがする…?」
朝食もといこの時代で言うところの朝餉は屯所のなかで済ませてきたばかりだから昼餉(昼食)にはまだ早い時間帯なのかもしれないが、なぜか心を揺さぶられる甘ったるい匂いについ匂いの出処を探ろうとしていると斎藤さんが半歩先に前を歩いて行くのを追って行った。
甘味処。
しっかりと記載された暖簾が微かに揺れている店先を見つけると屯所で甘いものの話をしていたからここに連れて来てくれたということが分かった。
「いらっしゃ~い。あら、沖田さん久し振りね~。あら、今日は斎藤さんもご一緒?」
ひょいっと甘味屋に顔を出していくとどうやら常連らしかった沖田のことを名を呼びつつ気さくに接客しながら店の主人らしい中年の女性が歩み寄ってきてくれた。席をどこにしようか少々迷っているらしい。昼間だというのに店内はそこそこの人の混み具合が出来ていて巷で人気のある甘味屋であると思われる。
「えーっと…そうだな…一くん、どうする?外で食べても構わないんだけど…」
「そう?…っと、あらちょうど良かった。あそこ空いたみたいだからそちらにどうぞ?」
「…失礼する」
女性が案内してくれたのは店の奥のほうだった。いろいろな意味で活躍している新選組の組織を知る人は少なくないだろうし、もちろんその隊士たちの顔と名前も知れ渡っていることだろう。新選組を善の組織として見ている人もいれば、もちろん悪として見ている人もいるはずだ。だからこそ、奥の席に案内してもらえたのは少し嬉しかった。実際に奥の席に着くまでの間、店内のあちこちからは「新選組だ」といった声を聞くことになった。もちろんよく知らない人たちから注目されるのはあまり気分の良いものではなかったからこんなことに巻き込んでしまう形になった斎藤さんには悪いことをしてしまった気分になった。
「……なんか、ごめんね?一くん…」
「…何がだ?」
真面目な斎藤さんのことだから特に気にしていないのかもしれないが、そこは私の心の中にある何かが許せなかった。
「…こそこそ影で何か言われるのって気分良くないでしょ?」
「…今更だ、そんなことは。それに覚悟の上で新選組に入っている。お前もそうじゃないのか?」
「…有名になるのは凄いことだと思うけど、新選組のこと勘違いしてる人も中にはいるんじゃないかな?」
「オレは別に誰かに褒められたくて新選組に入ったわけではない。局長や副長たちの意思に惹かれて入った」
まだ若いのになんて出来た人なんだろう斎藤さんって!年齢ははっきり聞いたことがないから分からないけれど二十代前半ぐらい…だよね?そんな若さで自分の道をしっかりと持って行動に表すことが出来る人って世の中意外と少ないものだ。
「…刀のことについて話してる一くんも凄いと思ったけど…今のも凄いね。…他の隊士たちと最近会ってないから特にそう感じるのかもしれないけど、一くんってやっぱり凄いよ」
「…やはり妙だな、お前は。本当に頭でも打ったのではないか?」
フッと口元を緩めて冗談を言う斎藤さんの姿を私は一生忘れられないかもしれない。美形が微笑む姿って本当に様になるんだもん!それに斎藤さんは気持ちを顔にあまり出さないタイプの人間だってここ数日の間のやり取りを交わすうちに分かってきたことだから笑ってくれる姿はレアだ。
「やだなぁ~。冗談なんて言うなんて一くんらしくないよ?」
「……いや、オレは…」
「はい、いらっしゃい!ご注文は何にします?って、沖田さんのことだからお茶とお団子で良いかしら?」
「え?あ、あぁ…うん…じゃあ、それを二人分お願いね?」
「はい、かしこまりました。少々お待ちくださいね~?」
沖田の好みはお茶とお団子、か。なるほど、これで再びこの甘味屋に来ても注文に困らなっくて済むかもしれない。と言うか、いつもお茶とお団子を頼む沖田も沖田だと思うのだが…。
「…っと、何か言いかけてたよね?どうしたの?」
女性が割り込んできたために斎藤さんの言葉が途中で途切れてしまったがその続きが気になる。さすがに沖田総司を演じていくのも限界があるし、斎藤さんの言葉の内容によっては全てをさらけ出してしまうのも楽なのかもしれない…。
「…ここ数日の間、副長とずっとお前のことについて話していた。…妙なクセというか…まるで別人のようになってしまったお前にさすがに疑問が抱いている。…何かあったのか?」
街中はもっと殺伐とした雰囲気が感じられるのかもしれないと内心ではびくびくしていた私だったが、数々のお店が並ぶ通りに向かうと意外にも街中は和やかな雰囲気が感じられた。
普通に買い物を楽しむ人がいれば客を呼び込もうと声を街行く人に声を掛けているお店の人もいて、明るい日差しの下では着物に身を包んだ人たちの流れが出来ており、なんとも幕末の世とは思えなかった。
これが昼間の顔なのかもしれない。夜も更けてくるとこの通りでは裏の顔を見せるようになる。特に裏通りにおいては日々、武士たちの斬り合いが行われていると聞いているし、そのために新選組も夜の市中見回りが欠かせないのだそうだ。
「うわー…ん?何か良い匂いがする…?」
朝食もといこの時代で言うところの朝餉は屯所のなかで済ませてきたばかりだから昼餉(昼食)にはまだ早い時間帯なのかもしれないが、なぜか心を揺さぶられる甘ったるい匂いについ匂いの出処を探ろうとしていると斎藤さんが半歩先に前を歩いて行くのを追って行った。
甘味処。
しっかりと記載された暖簾が微かに揺れている店先を見つけると屯所で甘いものの話をしていたからここに連れて来てくれたということが分かった。
「いらっしゃ~い。あら、沖田さん久し振りね~。あら、今日は斎藤さんもご一緒?」
ひょいっと甘味屋に顔を出していくとどうやら常連らしかった沖田のことを名を呼びつつ気さくに接客しながら店の主人らしい中年の女性が歩み寄ってきてくれた。席をどこにしようか少々迷っているらしい。昼間だというのに店内はそこそこの人の混み具合が出来ていて巷で人気のある甘味屋であると思われる。
「えーっと…そうだな…一くん、どうする?外で食べても構わないんだけど…」
「そう?…っと、あらちょうど良かった。あそこ空いたみたいだからそちらにどうぞ?」
「…失礼する」
女性が案内してくれたのは店の奥のほうだった。いろいろな意味で活躍している新選組の組織を知る人は少なくないだろうし、もちろんその隊士たちの顔と名前も知れ渡っていることだろう。新選組を善の組織として見ている人もいれば、もちろん悪として見ている人もいるはずだ。だからこそ、奥の席に案内してもらえたのは少し嬉しかった。実際に奥の席に着くまでの間、店内のあちこちからは「新選組だ」といった声を聞くことになった。もちろんよく知らない人たちから注目されるのはあまり気分の良いものではなかったからこんなことに巻き込んでしまう形になった斎藤さんには悪いことをしてしまった気分になった。
「……なんか、ごめんね?一くん…」
「…何がだ?」
真面目な斎藤さんのことだから特に気にしていないのかもしれないが、そこは私の心の中にある何かが許せなかった。
「…こそこそ影で何か言われるのって気分良くないでしょ?」
「…今更だ、そんなことは。それに覚悟の上で新選組に入っている。お前もそうじゃないのか?」
「…有名になるのは凄いことだと思うけど、新選組のこと勘違いしてる人も中にはいるんじゃないかな?」
「オレは別に誰かに褒められたくて新選組に入ったわけではない。局長や副長たちの意思に惹かれて入った」
まだ若いのになんて出来た人なんだろう斎藤さんって!年齢ははっきり聞いたことがないから分からないけれど二十代前半ぐらい…だよね?そんな若さで自分の道をしっかりと持って行動に表すことが出来る人って世の中意外と少ないものだ。
「…刀のことについて話してる一くんも凄いと思ったけど…今のも凄いね。…他の隊士たちと最近会ってないから特にそう感じるのかもしれないけど、一くんってやっぱり凄いよ」
「…やはり妙だな、お前は。本当に頭でも打ったのではないか?」
フッと口元を緩めて冗談を言う斎藤さんの姿を私は一生忘れられないかもしれない。美形が微笑む姿って本当に様になるんだもん!それに斎藤さんは気持ちを顔にあまり出さないタイプの人間だってここ数日の間のやり取りを交わすうちに分かってきたことだから笑ってくれる姿はレアだ。
「やだなぁ~。冗談なんて言うなんて一くんらしくないよ?」
「……いや、オレは…」
「はい、いらっしゃい!ご注文は何にします?って、沖田さんのことだからお茶とお団子で良いかしら?」
「え?あ、あぁ…うん…じゃあ、それを二人分お願いね?」
「はい、かしこまりました。少々お待ちくださいね~?」
沖田の好みはお茶とお団子、か。なるほど、これで再びこの甘味屋に来ても注文に困らなっくて済むかもしれない。と言うか、いつもお茶とお団子を頼む沖田も沖田だと思うのだが…。
「…っと、何か言いかけてたよね?どうしたの?」
女性が割り込んできたために斎藤さんの言葉が途中で途切れてしまったがその続きが気になる。さすがに沖田総司を演じていくのも限界があるし、斎藤さんの言葉の内容によっては全てをさらけ出してしまうのも楽なのかもしれない…。
「…ここ数日の間、副長とずっとお前のことについて話していた。…妙なクセというか…まるで別人のようになってしまったお前にさすがに疑問が抱いている。…何かあったのか?」